昨年5月に大腸がんのため死去した俳優今井雅之さん(享年54)が、生前最後に脚本を書いた映画「手をつないでかえろうよ~シャングリラの向こうで~」に、今井さんゆかりの俳優陣が集結することが28日、分かった。既に発表されている主演の川平慈英(53)をはじめ、別所哲也(50)藤田朋子(50)が出演。今井さんの舞台デビュー作を演出した奈良橋陽子さんがメガホンを取り、命日の5月28日、初日を迎える。

 「手をつないで-」は、09年に舞台化された作品の実写化で、当初は今井さんが知的障害のある青年真人役で主演予定だった。昨年3月にいったんクランクインしたが、今井さんは病に倒れた。同4月に末期の大腸がんを告白。余命わずかと知ると、今井さんと関係の深い別所、藤田らが、次々と出演を快諾した。

 物語は、同じ障害のある女性と結婚した真人が、妻を守るため罪を犯してしまい、自分探しの旅に出るロードムービー。今井さんと20年以上の付き合いがあった別所は、真人の父と敵対する暴力団組員を演じた。「がんと闘いながら、表現者たる雅之が文字通り命を懸けて仕上げた物語に参加でき、青春時代を英語劇で過ごした仲間として幸せ者です」。今井と同じ東京学生英語劇連盟出身の藤田は「雅さん(今井)のおかげで、撮影中は懐かしい仲間と懐かしい空気の中にいました。雅さんも一緒にいた気がします」と振り返った。

 今井さんは死の直前まで本読みに参加するなど、出演を熱望していた。奈良橋監督は、今井さんの思いを尊重する一方で、今井さんに内緒で、今井を兄のように慕っていた川平を代役に抜てきした。同監督は「慈英は以心伝心でくみ取って、うなずいてくれた。(今井とは)兄弟みたいだったし、雅之が喜ぶんじゃないかと思った」と告白。今井さんと舞台で数々の共演歴がある川平も「雅之のまなざしを感じながらの撮影でした」とコメントした。

 今井さんは生前、今作とその関係者に命懸けのメッセージを残していた。「映画製作にはいろいろな困難が待ち受けているとは思いますが、絶対に成功させる、成功すると信じております。(撮影が行われた)この夏は今までで『1番の夏』になることでしょう! 押忍」。1番の夏を迎えることはできなかったが、公開のころには天国から1番の初夏を迎えているに違いない。