【マカオ13日=杉山理紗】俳優小日向文世(62)が12日、俳優生活40年目にして初の海外映画祭に参加した。第1回マカオ国際映画祭のコンペティション部門に、主演映画「サバイバルファミリー」(矢口史靖監督、来年2月11日公開)が邦画で唯一出品された。受賞こそならなかったものの、各国から集まった観客を大いに沸かせた。

 東洋のラスベガスに、遅咲きの名優が登場した。格式高いレッドカーペットを、今作に欠かせない自転車で駆け抜けると、会場からは「バイセコー!?」とどよめきが起こった。舞台あいさつでは、カンペを見ながら中国語で「全財産を持って、カジノをしに来ました!」とあいさつ。ちゃめっ気たっぷりの笑顔で、観客の心をつかんだ。上映中は、大声で笑う観客を横目に、矢口史靖監督とつつき合いながら大喜び。上映後、あたたかい拍手に包まれると「幸せな時間でした。外国は苦手だけど、来てよかった」と余韻に浸った。受賞とはならなかったが「悔しいけど、会場で喜んでいただけたあの反応は事実」と胸を張った。

 東京に住むごく普通の家族が、世界から電気が消えるという危機を経て、絆を深めるストーリー。矢口監督の「便利なものに囲まれることが果たして幸せなのか」という疑問に端を発し、構想から10年以上をかけて作られた。「大阪は電気が通っている」とのうわさを信じ自転車で旅に出る一家の珍道中を、矢口監督が笑いあり、涙あり、感動ありに描いたが、撮影はまさにリアルサバイバルだった。「どうせ空調の効いたスタジオでやってるんでしょう、と思われるのが嫌だった」という矢口監督のこだわりで、高速道路を自転車で走り、冷たい冬の川でおぼれ、暴れ回る豚を追いかけた。

 頼りない一家の大黒柱が困難を乗り越える中で成長する姿を見事体現したが、実生活でも2児の父。毎朝妻とキスをし、息子と彼女の話で盛り上がる、仲良し家族だという。大学3年生の長男は演劇サークルに所属しており、父と同じ役者志望だ。父としてうれしいのかと思いきや、複雑なのだという。「役者で食べていくのは大変ですからね。42歳まで貯金ゼロで、全く食えない状態が続いたので、それを辛抱できるか、と聞きましたね。でも、役者という仕事は面白いよ、とは言っています」。

 23歳のデビューから、酸いも甘いも経験してきた。劇団解散を機に映像の世界へ進出。脇役で存在感を示し、主演として海外映画祭に参加するまで役者を続けてこられたのは、仕事を面白いと思えたからだという。40年の時を経て、ついに海外の舞台で輝きを放った小日向は「面白いから続けられた。食えなくても、面白いと思えば続けられる」と充実した表情をみせた。

 ◆小日向文世(こひなた・ふみよ)1954年(昭29)1月23日、北海道生まれ。都内の写真専門学校を卒業後、中村雅俊の付き人を務める。77年オンシアター自由劇場に入団、舞台俳優として活躍。96年の解散後、現事務所に所属。01年木村拓哉主演ドラマ「HERO」でブレーク、以後さまざまな映画、ドラマに出演。今年NHK大河「真田丸」に豊臣秀吉役で出演し話題に。

 ◆マカオ国際映画祭 カジノや世界遺産が目的の観光客だけでなく、ビジネス客にも訪れてもらおうと始まった。政府の支援が厚く、約8億円の予算がついている。代表を務めるマカオ観光局局長のマリア・ヘレナ・デ・セナ・フェルナンデス氏は「1回目だが反応は良かった。今後も続けたい」と意欲。6日間で、22の国や地域の52作品が上映され、コンペティション部門では「サバイバル-」など12作品が争った。特別招待部門では、生田斗真主演「土竜の唄 香港狂騒曲」(三池崇史監督、23日公開)が上映された。