脚本家、小説家の向田邦子さん(1929-81年)が手がけたテレビドラマ「阿修羅(あしゅら)のごとく」の自筆の構想メモがこのほど確認され、「向田邦子シナリオ集」(岩波書店刊、全6巻)の第2巻に収録された。複雑な人間模様を描いた創作の過程を示す貴重な資料と注目を集めている。

 「阿修羅のごとく」は1979、80年にNHKで放送された。平穏に暮らしていたはずの竹沢家で父の浮気が発覚。それを契機に浮かび上がる家族間のさざ波と、竹沢家の4姉妹の恋愛や生き方が描かれた向田さんの代表作の1つ。

 メモは「向田邦子」と印刷された脚本用の原稿用紙を使っていた。三女滝子を演じたいしだあゆみさんや父親役の佐分利信さんを指す「三女あゆみ」「佐分利」といった文字と人物相関図、印象的な場面で使われた「買物かご」「卵」などの言葉が鉛筆で細かく書き込まれ、イメージを膨らませていった様子がうかがえる。

 「シナリオ集」に資料を収録する際、向田さんの書籍編集に携わってきた烏兎沼佳代さんや、向田さんの妹和子さんが遺品のメモを確認し、内容が判明した。烏兎沼さんは「向田さんの頭の中がそのまま映し出されたよう」と話す。

 向田さんの遺品は、少女時代の数年間を過ごした鹿児島市の「かごしま近代文学館」に遺族が寄託。このメモは内容が「不明」とされていた。

 [2009年5月30日11時13分]ソーシャルブックマーク