作家の向田邦子さん(1929~81年)が脚本家としてデビューしたテレビドラマ「ダイヤル110番」(57~64年放送)の脚本4作が、14日までに見つかった。現在、内容が確認できる向田さんの脚本としては最も古い“幻のデビュー作”。創作活動の原点を示す貴重な資料といえそうだ。

 「向田邦子シナリオ集」(岩波現代文庫)の編集に協力したフリー編集者烏兎沼佳代さんが、演出家の高井牧人さんが保管していた台本を確認した。16日刊行の同シナリオ集第6巻に収録される。

 「ダイヤル110番」は日本テレビ系で放送された刑事ドラマの草分け。警察当局の協力を得て、実際の事件を基にできるだけ忠実にドラマ化して人気を集めた。複数の脚本家が交代で執筆、向田さんが数作にかかわっていたことは知られていたが、放送から時間が経過していたためストーリーなど脚本の中身は確認できていなかった。

 見つかったのは、59~61年に放送された「分け前」「万引部隊」「欲の皮」と、共同執筆の「しみ」の計4作の台本。表紙に「脚本

 向田邦子」と書かれていた。

 「分け前」は金庫破りに入った男2人の、裏切りとねたみを描いた作品。「しみ」「欲の皮」では、当時の家庭には珍しかったテレビを欲しがる子どもの様子などが描かれ、時代状況をうかがわせる内容となっている。

 烏兎沼さんは「犯人への目線が、シャープだが温かい。後年まで“人間”を書き続ける向田さんの視点が、最初からきちんと定まっていたことが分かる」と話している。

 ◆向田邦子

 脚本家、小説家。テレビドラマ「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」「あ・うん」などのシナリオを手がけた。小説に「思い出トランプ」「隣(とな)りの女」、エッセー集に「父の詫(わ)び状」がある。短編小説「花の名前」などで直木賞。1981年に台湾で飛行機事故に遭い、51歳で亡くなった。

 [2009年9月14日17時59分]ソーシャルブックマーク