命や福祉をテーマに硬派な記録映画を製作してきた岩手県北上市在住の双子の映画プロデューサー、都鳥拓也さん(29)と伸也さん(29)が、全国で最も自殺率が高い秋田県で自殺防止に取り組むNPOや遺族を取り上げたドキュメンタリー「希望のシグナル」を完成させた。

 2人はこれまで、岩手県西和賀町(旧・沢内村)の福祉行政を扱った「いのちの作法」(2008年)、児童養護施設を舞台に児童虐待に迫った「葦牙(あしかび)」(09年)などを企画・製作。本作では初めて監督・撮影も担当した。

 自殺に関する本を読んだのがきっかけだった。人と人とのつながりに興味を持ってきた2人。秋田県で自殺防止のために人と人のつながりの回復を試みる団体の活動に着目した。

 昨年4月から撮影を開始。NPOが相談に乗る場面や、地域で開くサロン、飲み会の様子を捉えた。追い込まれたときに死を選ばないための自殺防止の本質は、人とのつながりや居場所づくりといった「生きる」ことへの支援だと実感した。

 撮影のヤマ場を迎えたころ、東日本大震災が発生。予定を変更し、秋田市のNPOが被災した岩手県釜石市を訪れる場面を取り入れた。「岩手に住む者として震災から逃げてはいけないと思った」と伸也さん。ラストは「どう支えていくのか、いけるのか」という問いで終わる。

 「自殺は誰にでも起こり得る問題。特に震災後は、残された人が『生きるのと死ぬのはどちらが楽か』と考えてしまうのは普通のこと」と拓也さんは話す。自殺を身近なものとして捉え「生きていこうと思える社会」をつくりたいと考えている。

 来春の上映を目指すが、震災の影響でチラシ制作費や映画館への保証金など約300万円が不足しており、支援を呼び掛けている。問い合わせはロングラン・映像メディア事業部、電話0197・67・0714。