歌舞伎俳優松本幸四郎(67)が29日、茨城県土浦市で行われた「松竹大歌舞伎」公演で「勧進帳」の全国制覇を達成した。16歳の時に東京・歌舞伎座で「勧進帳」の弁慶を演じて以来、昨年10月は奈良・東大寺で上演回数1000回を達成。この日の茨城県公演で全国47都道府県すべてで「勧進帳」を演じたことになる。今回の地方巡演で通算回数1048回、全行程の走行距離は4万4060キロと地球1周に相当する。

 カーテンコールで花束を贈られた幸四郎は感慨深げに話した。「楽屋に訪れた年配女性が『お前さんのおじいさん、おとっつぁんの弁慶も見てるんだよ』とおっしゃったこと、旅先で拾った子犬に『弁慶』と名付け各地を回ったこと、カーター米大統領のため1日に3回勧進帳をやったことなど、52年間の北海道から沖縄までのさまざまな思い出がよみがえります」。

 地方巡演は移動が長く、敬遠する人も多かった。しかし、幸四郎は「歌舞伎を見たいとおっしゃる、お客様がいらっしゃれば出向いていく、これも歌舞伎俳優の大事な役目」との思いで01年から積極的に地方に出掛けるようになった。04年に沖縄で熱演し、その積み重ねが全国上演の金字塔を打ち立てた。「自分の思い、こだわり、歌舞伎俳優としての人生、心情を曲げず、捨てず、あきらめないでやっていきたい」という幸四郎は好きな俳句で今の心境をよんだ。「国々を巡り終へたり夏芝居」。

 [2010年7月30日9時36分

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