現在の全聾(ろう)をうそと認めた佐村河内守氏(50)が、ゴーストライターを務めていた作曲家新垣隆氏(43)に、自分の聴覚障害を否定した証言の撤回を求めていたことが13日、分かった。新垣氏によると、代理人を通じて「耳が聞こえていなかったことを認めてほしい」と伝えてきたという。佐村河内氏は、新垣氏を名誉毀損(きそん)で訴える意向を示していた。

 新垣氏はこの日、東京・杉並区内で行われた演奏会に出演した。終了後、本紙の取材に応じ、佐村河内氏側から“接触”があったことを明かした。数日前、佐村河内氏の代理人を務める弁護士から、自分の代理人に「いくつか協議をしたい」と申し入れがあったという。協議内容は、新垣氏が作曲したが、佐村河内守名義で発表した作品をめぐる著作権と、新垣氏による証言の撤回の要求だった。新垣氏は「耳が聞こえなかったということを認めてほしいという内容でした」と明かした。

 新垣氏は今年2月に会見で「(代作を務めた)18年間、佐村河内さんの耳が聞こえていないと思ったことは1度もなかった」と全聾状態ではなかったと証言した。一方、佐村河内氏は先月7日の会見で「99年ごろには両耳がまったく聞こえなくなったが、3年ほど前から回復してきました」と反論。さらに「新垣さんを名誉毀損で訴えます」と強気の姿勢を示していた。ところが新垣氏によると、この日までに訴状は届いておらず、自分を提訴する動きも把握していないという。撤回した証言をどのように扱うかなどは不明だ。

 新垣氏はこの日、証言の撤回要求に対して「会見でお話しした通りです。(証言を)変えるつもりはありません」と毅然(きぜん)とした表情で答えた。ただ近日中に代理人を通じた協議には応じるという。

 新垣氏は先月末、非常勤講師を務めていた桐朋学園大を退職した。現在は公演でピアノ伴奏を担当するなど音楽活動で生計を立てている。この日は女性演奏者3人と出演して約100人の前で演奏を披露。「活動の1つとして、しっかり作曲もしていきたいと思います」と話した。