女優仲間由紀恵(34)が故森光子さんの代表的舞台「放浪記」を継承し、主演することが9日、発表された。来年10月14日から11月10日まで東京・日比谷シアタークリエで上演される。国内最多2017回上演の名作は、森さん最後の舞台となった09年5月以来、約6年5カ月ぶりに仲間の「放浪記」として復活する。

 「放浪記」復活の準備は、昨年12月から始まった。森さんは12年11月10日に92歳で死去しており、一周忌が過ぎた頃だった。東宝の取締役演劇担当の池田篤郎氏は「『放浪記』は森さんが築き上げた舞台と同時に東宝にとっても財産演目。引き続き上演したいと思った」と言い、複数の候補者から仲間へのオファーを選択。最大の理由を「せりふが良く、立ち居振る舞いも美しく、舞台人として華もある」と説明した。

 森さんと仲間は親交があった。05年にNHKドラマ「ハルとナツ」で共演し、森さんは仲間主演ドラマのナレーションも担当。仲間は、2000回達成時など何度も「放浪記」を見て、楽屋で森さん主催のお茶会にも参加した。5月にはフジテレビ系ドラマ「森光子を生きた女」に主演。劇中劇ではドクターストップで中止となった10年の上演で森さんが着る予定だった衣装を着て「放浪記」の名場面を演じた。この経緯もあり、仲間は「やらせていただきたい」とオファーを快諾したという。

 森さんは、自分が演じられなくなった後も「放浪記」継承を望んでいた。演出の北村文典氏は「『放浪記』は自分だけのものではないと思っていた」と明かす。晩年は名物でんぐり返しを封印し、万歳に演出変更したが、北村氏は「仲間さんと相談して決めたい」。ともに支えた大塚道子さん、斎藤晴彦さん、米倉斉加年さんが亡くなったため、共演者は若返り、時代に合わせて、よりスピーディーな舞台を目指すという。

 当初は11月10日の三回忌に仲間が京都にある森さんの墓に墓参後に発表予定だったが、9月18日に俳優田中哲司と結婚するなど話題が集中したため、前倒しになった。シアタークリエは初演した芸術座が生まれ変わった劇場で、東京公演千秋楽の11月10日は、森さんの命日となる。11、12月大阪・新歌舞伎座、12月名古屋・中日劇場、再来年1月博多座の公演で上演回数は約100回。森さんの初演時の41歳より若い仲間「放浪記」の長旅が始まる。

 ◆「放浪記」

 作家林芙美子の自伝的小説を舞台化したもので、61年に東京・芸術座で森さん主演、菊田一夫作・演出で初演された。当時41歳の森さんにとって初主演の舞台だった。その後、再演を重ね、09年5月の千秋楽で国内最多2017回を記録し、森さんは国民栄誉賞を受賞した。