豊洲市場の移転問題を検証する都議会の調査特別委員会(百条委員会)で20日、石原慎太郎元都知事(84)の証人喚問が行われた。

 石原氏は午後1時2分、「良心に従って真実を述べ、何ごとも隠さず、また何ごとも付け加えないことを誓います。以上です」と宣誓書を朗読した。そして、都議会自民党の桜井浩之委員長から質疑が始まった。

 -あなたは石原慎太郎さんですか?

 はい。

 -役職名、生年月日は

 作家であります。昭和7年9月30日。当年とって84歳です。

 次に都議会自民党の来代勝彦都議が質疑を行った。

 -都の財政を再建された功績は本当に大きかった。感謝しております。私たち自民党は百条委員会においては、事実を確認したい、ただ、それだけでございます。大きな社会問題となっている市場移転の問題です。汚染された豊洲への移転を決められたのは、行政側から決済を求められ知事として政治判断したのか、さまざまな情報をもとに、独断で決定したのか?

 お答えする前に一言お断りしておきます。私事になりますが、2年ほど前に脳梗塞をわずらいまして、いまだに、その後遺症に悩んでおります。現に利き腕の左腕が使えませんで、字も書けませんし、絵も描けません。患部が右の頭頂部だったため、その近くの海馬という、記憶を埋蔵する箱のようなところが、うまく開きませんで、残念ながら、私は全ての字を忘れました…平仮名さえ忘れました。物書きでありますから、何とかワードプロセッサでものを書いていますけれど、記憶を引き出そうとしても、思い出せないことが多々あります。1つ、ご了承願いたい。できる限り質問には答えたい。築地が既に限界に来ていて、鈴木さん(俊一元都知事)の時代から、どこかに移転しようというのが都庁としての懸案だったようであります。定かに覚えておりませんが、青島知事も受け継ぎまして、私が当選した時の引き継ぎ文に、確か文言として豊洲地域に市場を移転するという文言があった。私が青島さんから引き継いだ懸案の1つだと思っております。

 -決済されたのは石原知事ご自身?

 そうであります。紆余(うよ)曲折があり、その間、新議会で審議し、各部局が専門性を生かして調査もいたしまして、最終的にかなり時間をかけた後、多分、他局にまたぐ事項をまとめて報告をして決済を仰いでくるのは、知事本局長だと思います。ある時点で参りまして「衆議一決いたしましたので、決済を 願いたい」と。私は「豊洲の土壌の汚染問題はあるけれども、確かに解決できるのかなぁ?」と聞いたところ「今の技術をもってして可能であります」と言うので、決済しました。

 -侍らしく、潔く執行責任をお認めになる?

 行政は司、司が専門性を踏まえて審議をして、積み上げてきてピラミッドのようなもの。当時の頂点にいた私が、最終的に報告を受けて全体の総意を受け、土壌の問題に核心があるのかと聞いたら、現在の技術だと大丈夫というので決済しました。私は認めます。

 -賛成した議会にも結果責任があると思う。小池知事が独断で議会に相談なく延期を発表し、多方面に影響を与えている。当時、政治判断し、豊洲は他の候補地よりどこが優れていると思った?

 比較の問題で難しいが、私は覚えているが、かつてパリのピエ・ドゥ・コーションという市場近くのレストランで食事した時、当時の市場を視察した。パリはフランス国土の真ん中にある、その首都の真ん中に市場があるというのに驚いた。(東京も)これから環状線も出来るだろうし、道路事情も変わると思ったし、市場に問題のありそうな、相手(東京ガス)も売却をしぶっているような豊洲に移すよりも、三多摩か内地のどこかに市場を作ったらどうかを提案しましたけど、一笑に付された。都庁の中で豊洲移転という大きな流れがあって、私では逆らいようがありませんでしたし、本局長の報告を受け採決した。

 -私は豊洲への(移転を)決済したことは大英断だと思う。市場の未来を考えたら、豊洲への移転は良かったと思う。

 次に都議会自民党の古賀俊昭都議の質疑が始まった。

 -11日の百条委員会で、大矢実元市場長が、石原都知事が知事選に最初に当選した99年9月1日に築地市場を視察されたと語った。当時の印象は?

 市場として非常に不適格で、働いている人にとっても、危険な職場だという認識を持った。建物にアスベスト(石綿)が、たくさん使われているのは周知のこと。場合によっては飛散し、呼吸しますと肺気腫を起こしますし、肺がんにもつながりかねない。しかも地下には、かつての米軍の洗濯工場の施設があった。かつ、皆さんお忘れかも知れないけれど、かつてのビキニ環礁で行った米国の水爆実験の、死の灰をこうむった第五福竜丸が、あそこにたどりついて、汚染されたマグロを陸揚げして、どこかに埋蔵した。放射能の総量も損じないし、ベンゼンのように揮発するか分からないが、福島第1原発の例を見ても、かなりの浸透力を持っている。働く人たちにどういう影響を与えるか解明されておりませんし、都民が食べる生鮮食品を扱う施設として、最も不適切だと思っています。

 -築地では現地立て替えから工事の中断など紆余(うよ)曲折があった。豊洲への移転交渉の担当者を、福永元副知事から浜渦副知事に担当を変えた理由は?

 当時、東京都は何としてでも豊洲を買いたい、東京ガスは、いろいろなプロジェクトの企画もあって売りたくないと食い違いがあって、ことが運行しなかった。再建団体転落寸前の東京の財政を復活するために、会計制度も変えましたけど、職員の歳費をカットしない限り財政は浮かんでこないということで、おそらく20%の歳費のカットを提案した。組合として非常に受けがたいことだったが、浜渦が当時の委員長を説得して受け入れてくれた。2年の約束を、私はだまして3年、カットしたんですけど、5年たって都に4000億円の余剰が出来て五輪を発案した。辣腕(らつわん)だった浜渦に、膠着(こうちゃく)している東京ガスの交渉をするよう、全権委任して当たらせた。

 -移転が延期されている現状をどう思っているか?

 小池知事について申し上げると、安全と安心が非常にこんがらかって、その両方を成り立たせたいという思いもあるんでしょうけど、人間の問題であって、人間の英知の結晶である科学が一方にあり、、それで左右しきれない人間の心の問題がある。既に1月に東京都の専門委員会は、豊洲は安全だという判断をくだしている。最近も直にお目にかかってお話を伺ったが、米田さんという京都大の土壌汚染の権威が「豊洲が安全だ」とおっしゃる。一方、日本の土壌汚染の最高権威の中西準子先生も「豊洲は完全に安全だ」と言っていらっしゃる。米田先生が非常に懸念されたのが「風評というの前で科学の真実が負けてしまうのは文明国、国家として恥」とおっしゃった。そういうことを踏まえて、小池さんは速やかに決断して移転すべきだと思う。3月に入って、豊洲の移転延期を議会にはからずに発表されたのは、議会軽視の最たるものだと思いますよ。民主主義政治というものは、都民の代表が構成している議会があって、行政と並立して健全な行政が行われる。議会が周知できず、知事が1人の判断で移転を勝手に決めてしまう。しかも膨大な予算も伴う。ピラミッドの頂点にあった人間として、下から上がってきた裁可の要請を受け止めて裁可することを、何で小池さんが行わないのか…私は不可解。彼女の不作為の責任が問われるべきだと思う。私が行政のトップで、豊洲移転を裁可した人間として民事訴訟が起こっているのは荒唐無稽な話で、日本のような法治国家としてありえないこと。私は、小池さんが議会を無視して、膨大な予算を支出せざるを得ない豊洲移転)延期を議会にもはからず裁定する。築地で宙ぶらりんになって生殺しになっている、一種の被害者の業者含め(小池都知事への)民事訴訟がどうして起きないか、不思議なくらい。

 午後1時半、繰り返し騒いだとして、傍聴人が退廷を命じられた。退廷になったのは、都知事選にも立候補したマック赤坂氏で、マック氏が退廷する際、石原元都知事は笑みを浮かべて見守っていた。【村上幸将】