あそこは原口なのでは。そう思った虎党がどれほどいるか分からないが、こちらはそう思ってしまった。

0-0で迎えた8回表、阪神は2死二塁の好機を迎えた。1死から安打と犠打でつくったチャンス。打順は9番、投手のところに回った。高橋遥人、中日・柳裕也の両先発投手が気迫のこもった投球を見せるなど緊張感あふれる展開。普通に見て、1点勝負だ。

あの男の出番だと見た。原口文仁。大腸がんを克服し、チームに元気を与える若者。現在は代打の切り札だ。ここは頼むで! そう思ったが打席に立ったのは鳥谷敬だった。

鳥谷は三邪飛に倒れ、得点は入らなかった。原口は延長11回に近本光司の代打で出たが安打はなかった。その裏、ドリスの暴投でサヨナラ負け。0-1で阪神は連敗を喫した。

いつも書くが選手起用は監督の“専権事項”だ。政治家がよく使う言葉なので、あまり好きではないけれど、言葉として分かりやすいので使用する。用兵は監督が考え、自らの責任で決断するものだ。だから外野からどうこう言っても仕方がない。

だけど「こういうのを見たかった」という意見もあるはず。ここはまさにそれだった。1点勝負の試合で、きっちりお膳立てをし、さあ勝負! というところで切り札を出さないのは欲求不満が残る。

もちろん理由はある。右腕の柳は右打者より左打者の方が打たれている。ここまで打点のない鳥谷に適時打が生まれれば一気にムードが上がる。鳥谷は現状、代打起用が続く。だが冷静沈着なベテランの力が必要になる時期は必ずくる。阪神ベンチにしても、そのために鳥谷を“死なせない”起用は重要だ。チームの士気、ムードを高く保つため、指揮官・矢野燿大は思考を続けている。

そう考えれば矢野が鳥谷を選んだ理由も分かる。だが連敗はしたくない大事な試合のはず。今季ここまでの流れを考えれば、やはり勝負手を打つ場面だったと思わざるを得ない。

「起用は監督が決めることなので。代打の切り札は原口です。いまは。もちろん鳥谷に打ってもらわなければ困るということですね」。打撃コーチの浜中治は冷静に言葉を選んだ。正念場に選手も監督もコーチも必死だ。だからこそ、ここ一番の見せ場では起用する側もされる方も踏ん張ってほしいのだ。(敬称略)

中日対阪神 11回表阪神1死二塁、代打原口(左)を告げる矢野監督(中央)(撮影・上山淳一)
中日対阪神 11回表阪神1死二塁、代打原口(左)を告げる矢野監督(中央)(撮影・上山淳一)