この連載も今回が最終回になります。これまで20年東京大会でボランティアとして活躍していただく方々にどのような「おもてなしの心」をもっていただきたいかお話ししてきました。海外の方を迎えるための「グローバルマナー」についてもお伝えしてきましたが、そのような知識があっても、外国語が話せても、それだけで十分とはいえません。私たち自身が日本の文化を理解し、それを海外の方々に正しく伝えることがとても重要だからです。

 昨年、訪日外国人旅行者が2000万人を突破し、日本政府は20年の目標を4000万人としています。訪日客の大半は日本の文化や習慣に興味を持っており、「日本人は誰でも自国の文化をよく理解している」と思っています。「武士道を説明してください」。「着物の着付けを教えてください」。そんな質問を当たり前のようにしてくるでしょう。しかしそういった質問にうまく答えられる日本人がどれだけいるでしょうか。

 実は14年ソチパラリンピックの視察で私も恥ずかしい経験をしました。「一校一国運動」で日本を担当した学校を訪れた時、校長先生に「私たちは『さくらさくら』の歌を覚えました。せっかく日本の皆さんがいらしたのですから、ぜひ流ちょうな日本語で聴かせてください」と言われたのです。ところが「さくら~さくら~やよいのそらは~」と、そこまでは歌えたものの、その後の歌詞が出てきません。同行した10人誰一人フルコーラスで歌える人がおらず、「Sorry」と謝罪するしかありませんでした。

 和食を楽しみに来日する外国人に、和食の文化を説明し、食べ方やマナーを正確に教えられる日本人は決して多くはありません。能、狂言、文楽、歌舞伎などの伝統芸能を、うまく説明できる日本人も少ないでしょう。近年、日本ではグローバル人材の育成という言葉をよく聞きますが、それは外国語を話せるといったことだけではなく、日本の文化について習熟した見識を備え、海外の人たちにアピールできることこそがグローバルな人材といえます。

 私は20年大会を機に1人でも多くの日本人が、自国の文化を正しく理解し、伝えられるグローバルな人になってほしいと願っています。そして、「おもてなし学」がその一助になればと考えています。(筑波大客員教授)(終わり)

 ◆江上いずみ 慶大法学部卒。JALの客室乗務員として30年間で約1万9000時間乗務。13年にグローバルマナースプリングス設立。15年から筑波大客員教授。大学や官公庁、企業などで「グローバルマナーとおもてなしの心」などの講演を手がける。