柔道男子73キロ級を制した大野将平(24=旭化成)の母校・天理大柔道部の柿添(かきぞえ)大樹コーチ(23)が、金メダル獲得を喜んだ。柿添さんは天理大で大野の1学年下。学生時代から親しかった先輩の快挙に「金メダルを取ってくれて良かったです!」と、うれしそうだった。

 青春時代を共に過ごした。初めて出会ったのは大野が高3、柿添さんが高2の時。20歳以下の強化指定選手の合宿で一緒になった。大野の第一印象は「怖かった」。そのイメージが天理大への入学後、一変した。

 柿添さんが大学1年のある夏の日の練習中だった。ふと横を見ると、大野の目から大粒の涙がこぼれていた。「うまくいかない…」。聞き取れないほどの声でそうつぶやいていた。練習を続けながら、大野の涙は止まらなかった。そして、納得がいくまで道場に残って練習していた。特別な試合でもない、何でもない日常の練習。それなのに全てを懸けるほど真剣に取り組んでいた。その秋、大野は全日本ジュニアと世界ジュニアで優勝した。一日の練習も無駄にしなかった成果だった。

 情熱は表に出したが、つらい思いは内に秘めていたたという。大野が世界選手権で優勝した3年前、部内暴力が発覚した。柔道部は約2カ月間活動停止。その期間中、部員は毎日午後4時半から約1時間、街の清掃活動を行った。柿添さんは当時、大野も淡々とこなしていると思っていた。

 3年が過ぎ、居酒屋で2人で酒を飲んでいた時、大野がポツリと言った。「あの時が一番つらかった。柔道を辞めようと思っていた」。柿添さんは「全く知らなかった。当時もいつも通りの将平先輩だと思っていた。そこまで考えていたとは想像もつかなかった」と驚きを隠せなかった。後輩には心配をかけられないという、大野ならではの熱いおとこ気だった。

 リオへ向かう前のこと。「五輪で金メダルを取れたら、現役を辞めてもいい」と漏らしたことがあった。それぐらい1つの大会に全てをささげている。常に全力でひた向き。そして、後輩思い。金メダルの影に隠れた多くの涙が「強い将平先輩」を作り上げていた。