世界ランキング8位の福原愛(27=ANA)が「卓球誕生日」を勝利で祝った。3歳9カ月で卓球を始めた「8月13日」に迎えた、女子団体準々決勝オーストリア戦。二人三脚で「卓球の愛ちゃん」を築いてくれた母千代さん(65)が見守る前で、第1試合のシングルスと第3試合のダブルスで2勝を挙げて4強入りに貢献した。14日(日本時間15日午前7時半)の準決勝でドイツに勝てば、銀メダル以上が確定する。

 負けるわけにはいかなかった。「私にとっては自分の誕生日より大事な日。特別な日に五輪のコートに立てた感謝の気持ちが、ものすごく募りました。勝つことができて、とてもいい25年目のスタートを切れました」。第1試合はポルカノワに3-0と完勝。劣勢だった第1、第2ゲームは絶好調のバックハンドで相手を揺さぶり逆転。第3ゲームの最後は、強烈なスマッシュを連発して、流れを引き寄せた。第3試合のダブルスも3-1。1回り年下の伊藤を精神的に支えるだけでなく、ラケットを投げ出してまでボールを追う勝利への執着心も伝えた。

 12年ロンドン大会に続く決勝進出に王手。喜びはスタンドから応援してくれた母千代さんに、真っ先に伝えたかった。笑顔で手を振ると、これまでの思いが巡って、感極まった。「五輪の舞台に母が来てくれて、その姿を見てもらえたことは感慨深い、強いものがありますね」。92年8月13日、仙台市内の集会場。それまで卓球台の近くで本を読んで我慢していた福原は、母の一言を3年9カ月待っていた。「卓球やる?」。「うん」と即答。その日から母と歩む卓球人生が始まった。

 妥協を許さないのが母の教え。「昨日できたことは今日できないわけがない」。1日3部練習で最低でも10時間。中学卒業後は母のもとを巣立ったが、いつも包み込んでくれた。4月、せきぜんそくを発症するなど結果も出ず、心身ともにどん底だった福原は、母の都内マンションに2泊3日で駆け込んだ。隣で本や漫画を読んで、寄り添うだけでよかった。食卓には大好物のナスの煮物、焼き魚、みそ汁が並んだ。母の味が、復活への良薬だった。

 3月の世界選手権では、母の誕生日にマレーシアでケーキ屋を探し、深夜0時に部屋を訪ね、サプライズで喜ばせた。その場で「リオでは金メダルだね」と約束。「オリンピックは何が起こるか分からない舞台。自信を持ってみんなで力を合わせたい」。4大会連続出場の大舞台で、初の“誕生日マッチ”を制した勢いで、卓球界初の喜びを分かち合うことが、最大の恩返しとなる。【鎌田直秀】

 ◆12年ロンドン五輪の女子団体VTR

 福原愛、石川佳純、平野早矢香の3選手で出場。1回戦で米国、準々決勝でドイツ、準決勝でシンガポールをすべて無敗で退け、日本卓球史上初の五輪メダル確定。中国との決勝は福原がシングルス金の李暁霞に、石川が丁寧に敗れるなど3連敗。