トランプ米大統領が、新型コロナウイルス感染が世界中で拡大していることを踏まえて「個人的意見」とした上で、東京オリンピック(五輪)の1年延期を提案したことが13日、日本国内で大きな波紋を広げた。

安倍晋三首相はトランプ氏と電話会談を行い、五輪開催への努力を表明したが、国際オリンピック委員会(IOC)の収入の大部分を占めるのは米NBCの放映権料。大会に影響力を持つ米国トップの発言だけに、五輪開催の是非に関する今後の議論に、影響する可能性が出てきた。

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トランプ氏は質疑応答で「あくまで私見」とした上で「無観客で開催するより、1年延期するほうが良い選択肢だ」と述べた。開催の是非については「日本が自ら判断することだ」と述べつつ「観客なしで開催するよりは、延期の方がいいだろう」と、強調した。

大会の全米放映権は米NBCが持ち、国際オリンピック委員会(IOC)の収入の多くは、この放映権料が占める。また米国の大手企業も大会のスポンサーに名を連ね、米国の大会への影響力は大きい。ウイルス感染拡大で、世界経済を引っ張る米国経済が打撃を受ける中、大会が正常に開催されなければ米国の経済に飛び火しかねず、ひいてはトランプ氏が再選を目指す今秋の大統領選の行方も、見通せなくなる。

五輪ビジネスに精通した大会組織委員会の高橋治之理事が、大会の1~2年延期論に触れ、国内で波紋を広げているタイミングで、トランプ氏も延期に踏み込んだ。この日、安倍晋三首相は50分にわたりトランプ氏と電話会談し、開催への協力を呼びかけた。日本政府の説明では、安倍首相は「五輪開催に向け努力している」と呼び掛けた。途中まで同席した菅義偉官房長官によると、トランプ氏から「日本の透明性ある努力を評価する」との趣旨の発言があったというが、会談後、トランプ氏はツイッターに「安倍首相とすばらしい話をした。日本と首相に良いことが起きるだろう。選択肢はいろいろある」とつぶやいた。「選択肢はいろいろ」というフレーズが再び、波紋を広げている。

現状では、新型コロナウイルスが国内で収束する見通しが立っておらず、与党内では「トランプ氏の発言の影響力は大きい」(関係者)との懸念があり、7月24日の正常開催への機運が、トランプ氏の発言に引っ張られかねないとの危機感も強まってきた。野党からも「各地から選手団が来るリスクを検討しなければならない時期だ」(立憲民主党の蓮舫参院幹事長)と、注文も出始めている。

一方、東京都の小池百合子知事は、トランプ氏の発言に「毎日、超弩(ど)級の変化があり、あまり驚かない。大会の中止はまったくない。無観客もあり得ない」と強調したが、最終的にはIOCの判断だ。バッハ会長が、世界保健機関(WHO)の勧告に従うとの考え示したことに、小池氏は「いろいろな発言があるが、連携を取っていく」と述べるにとどめた。