自分でパワーポイントを使ってスライドを作り、写真や映像を交えながら話す。1時間以上、座ったままの子どもたちの集中力を保たせる。こんな難しいことを、やってのけたJリーガーがいました。清水エスパルスMF村田和哉(28)です。

 先日、村田が静岡市内にある小学校で行った講演を聞きました。4~6年生と保護者、地域の住民の方など約400人が、体育館に集結。地元である静岡で、清水と村田の知名度は抜群。清水のタオルマフラーを持参してきている子どもの姿もありました。ワイワイガヤガヤしていましたが、普段のユニホームや練習着ではなく、スーツにめがね姿の“村田先生”の登場で、シーン。「夢をかなえるヒントを、みんなに伝えたいと思います」と授業が始まりました。

 自身で何日間もかけて作ったスライドを背に、右手にはレーザーポインター。台本はありません。簡単な自己紹介を終えると、中学時代の話に移りました。スライドには「おやじの死」の文字。保護者席からは、息をのむ音が聞こえました。小さい頃から大好きで、練習を重ねていたサッカーさえ「どうでもいい」と思ったほどショックな出来事。しかしそこから「悲しんでるだけではアカン」と生徒会長に立候補するなど、考え方を変えて前向きになった経験を明かしました。

 他にも、海外リーグへの挑戦を試みたものの、失敗したこと。強い意気込みで加入した清水で15年にJ2降格を経験したことなど、人生の大きな挫折を「転機」として紹介しました。

 自分の失敗や挫折を、大勢の人に話すことは、簡単ではありません。葛藤もあったと思います。村田は「話すのには勇気が必要。でも、それが子どもたちにとって力になって、1人にでも生きる力にしてもらえたらいい」とあえて講演の軸にしたそうです。

 講演時間は、トータルで1時間15分。学校の先生方は「子どもたちがずっと静かに聞いていて驚いた」と言っていたそうです。人生で2度目の講演を終えた村田は「みんな今の俺を見て、人生全部成功してプロになったと思ってる。でもそうじゃないんだと。誰が、何を言うかが大事。清水エスパルスの村田が言うからみんな聞いてくれる。現役選手だから価値がある」と話していました。

 一方、子どもたちの前で「J1優勝、日本代表、世界でプレーする」と夢を語った村田も「自分も言ったから、やらなアカン」と25日のリーグ開幕を見据えています。

 講演会のあと、村田は全員と握手しました。帰り道、「もう手を洗わない!」と話す子どもたち。大人になる過程で大きな壁にぶつかったとき、村田の言葉がきっと身に染みるはずです。

 ◆保坂恭子(ほさか・のりこ)1987年(昭62)6月23日、山梨県生まれ。埼玉県育ち。10年入社。サッカーや五輪スポーツ取材を経て、15年5月から静岡支局に異動。今季はJ1清水と、J3藤枝の担当。イチゴ狩りのシーズン真っ盛り。石垣で作られたイチゴはしゃがまずに取れるので食べやすく、太陽をいっぱい浴びたイチゴは絶品です。