<キリンチャレンジ杯:日本1-0アルゼンチン>◇8日◇埼玉

 世界ランク30位の日本代表アルベルト・ザッケローニ監督(57)が初陣で歴史的勝利を飾った。世界最高峰FWのリオネル・メッシ(23)擁する同5位の強豪アルゼンチンを撃破した。

 世界最高のスーパースターも「人間」だった。敗戦の笛を聞いたメッシは、肩をたたいて健闘をねぎらった日本代表MF長谷部を、思わずにらみつけた。数百人集まった自国サポーターに、手をたたいて応じたが、すぐに頭をかいてうつむいた。

 個人的なプレーは、まさに世界クラスだった。メッシがボールを持った瞬間、日本代表の守備陣はDF長友、長谷部らを中心に2、3人が殺到。だがメッシはその中心、わずか直径1メートルほどのスペースで反転すると、簡単にドリブルで包囲網をかいくぐった。

 前半7分には3人を抜いた後、FWのD・ミリトとワンツーで、ゴール至近距離にまで接近。左足甲外側をうまく使ったループシュートは、惜しくもクロスバーをかすめて外れたが、GK川島の頭上を完全に破っていた。「僕は何かをするために、ここに来た」。前日会見で活躍を宣言したとおり、1人で日本守備陣を振り回した。

 だが、逆に1人ではゴールを奪うまでには至らなかった。MFカンビアッソらが負傷退場。残りのメンバーも疲労で動きが悪く、メッシに連動して威力を増すような攻撃は、ほとんど見られなかった。メッシ本人も、終盤になると複数に囲まれ、ボールを奪われる場面が増えた。フラストレーションがたまったのか、対面した長友を恨めしそうににらみつけるシーンもみられた。

 マラドーナ体制で臨んだW杯でも、メッシらをそろえる個人の水準は、間違いなく大会屈指だったが、準々決勝で若いタレントが組織立った動きをみせたドイツに、0-4と惨敗した。バティスタ暫定監督のもと、9月にスペインに4-1と圧勝したため、楽観論も出ていたが、根本的な問題は解決していなかった。

 「メッシも人間だったね。2、3人でいけば何とかなった。まあ、やられたところもあったけど」。完封に笑顔をみせたDF栗原勇蔵(27=横浜)の言葉が、メッシとアルゼンチンの現状を見事に象徴していた。【塩畑大輔】