<W杯アジア最終予選:オーストラリア1-1日本>◇12日◇ブリスベーン・スタジアム

 日本代表DF栗原勇蔵(28=横浜)が値千金の先制点を奪った。後半20分、MF本田圭佑(26)のクロスをゴール前で確実に合わせ、8日のヨルダン戦に続き2戦連発となる先制弾。日本代表DFの最終予選での2戦連発は初、同予選2得点も98年フランス大会の秋田、10年南アフリカ大会の闘莉王に続く3人目の快挙だ。DF吉田の故障離脱で回ってきた先発で、試合終了間際には2枚目の警告を受け退場処分を食らったものの、攻守両面で存在感を示した。

 誰もが驚いた。最大の難敵から先制点を挙げたのは予想外の男、栗原だった。右サイドを切れ込んだ本田のクロスをゴール前で確実に押し込み先制点。「ほとんど(本田)圭佑の点。決めればいいボールを上げてくれた。DFはあまり点を取る機会がないから、まぐれです」。こわもての男は歓喜の輪に吸収された。

 不動のセンターバック吉田の「代役」だが、存在感は示した。序盤こそ猛攻にさらされたが、次第にFWケーヒルらとの空中戦も対等に渡り合った。前半19分の絶体絶命の危機では、ゴールに吸い込まれそうな浮き球を、地面に背中から倒れながら左足でかき出した。「これが世界の選手なんだなと感じた。高いレベルの試合ができて良い経験になった」と振り返った。

 若手時代から日本人離れした身体能力で、将来を期待されてきたが、熱くなりやすい精神面を課題として指摘され続けた。横浜の一員として臨んだ04年8月のレッジーナとの親善試合では、ひじ打ちを食らい額から大流血。血が止まらず交代したが、ベンチをぼこぼこに蹴飛ばし、怒りをぶつけたこともある。

 だが、根は正直で優しい好青年。08年に入団した韓国人DFキム・クナンが孤独を感じていると悟ると食事に誘って勇気付けた。今でも悩みを抱える若手を食事に連れ出し、話を聞く。「おれも28歳になったから」と照れるが、横浜では副将にもなり、リーダーシップを取る立場となった。

 ただ、昨年8月の代表合宿でザッケローニ監督からかけられた忘れられない言葉がある。「ガツガツ感がなくなったと言われた。それが持ち味なのにって。冷静さと熱さ。2つが必要だなって」。大人のプレーを覚えた半面、無意識のうちに失っていた荒々しいほどの闘志むき出しのプレー。警告を1枚受けた状況下でゴール前で小競り合いを起こす“らしさ”も見せたが「戦いなので気持ちで負けてはいけない」。その場面以外は時に熱く、時には冷静に守備陣を引き締めた。

 終了間際には微妙な判定でこの日、2枚目の警告を受けて退場処分を受けた。「笛が鳴ってファウルかと思った瞬間、カードまで出てびっくりした」。急きょ先発、日本代表DFでは初の最終予選2戦連発の快挙、そして最後の最後で退場。まさに独り舞台だった。

 背番号4を本田に譲り注目された。「点を取ったり、退場したりいろいろあった。できれば勝ちたかった。満足はしていない。退場してしまってチームに迷惑をかけてしまったから」。試合後、殊勝に反省を口にした。だが、一戦で確かな1歩を踏み出したことに違いはない。