J2金沢が想定外の快進撃を見せている。昨季J3の初代王者となり、今季から初めてJ2に挑戦。13試合で8勝3分け2敗、首位磐田と勝ち点1差の3位につける。専用の練習場やクラブハウスはなく、低年俸でアルバイト兼務の選手もいる。ないない尽くしのチームが躍進し、J1ライセンスの取得準備などクラブは大忙し。取り巻く苦難を気にすることなく、輝いている金沢の現状に迫った。

 北陸新幹線のような驚異のスピード成長だ。ここ10戦負けなしと波に乗る金沢。森下仁之監督(47)は「失点が少ないのがいい」。13試合を終え、失点はリーグ最少の7と、1人1人の感覚に任せた守備が的中している。さらに、8点で得点ランク2位のMF清原翔平主将(27)は「ペナルティーエリア内の仕掛けの質が高い選手が多い」と胸を張った。

 ローコストの進撃だ。予算はJ2平均の半分となる約5億5000万円。同じJ2で、6億円と推定されるC大阪フォルランの年俸にも及ばず。年俸1000万円を超える選手はゼロで、ご当地グルメのカレー店でアルバイトする若手もいる。「きついけど、まかないが食べられるから」と練習後、食費を浮かすため、もうひと汗流す。アウェー戦も節約のために本州、四国はバス移動。試合前日の早朝に出発し、愛媛、徳島などは片道9時間かかる。

 専用の練習場はなく、人工芝のグラウンドを転々とする。それでも昨年までJ3だった選手たちは黙々と戦う。プレーオフ圏内の3位につけても、チームは「J2残留」を目標に掲げる。森下監督は「チーム力、クラブ力どちらもそろわなければいけない。現場は勝ち点を積むことが大切」と足もとを見つめた。

 クラブハウスと天然芝の練習場、J1ライセンスがなく現時点では昇格が不可能。ライセンス取得に必要な申請書を提出期限の6月中に出すため、西川GMは「今ある天然芝のグラウンド横に、クラブハウスを建てるのが現実的」。チームの好調を受け、行政側も「クラブの話を聞きたい」と早急に話を進める方針だ。

 厳しい環境にも、清原は「環境をマイナスには感じていない。他のクラブはすごいけれど、僕らはJ3から上がってきた」と誇りを持っている。次戦は、17日アウェー千葉戦。「クラブが大きくなれるように、この順位に居続けてアピールしたい」。今は、ひたすらに走り続ける。【小杉舞】

 ◆ツエーゲン金沢 前身は1956年(昭31)に誕生した「金沢サッカークラブ」。06年に石川県からJリーグを目指すクラブを作ろうと、星稜高の河崎護監督らが中心となり「ツエーゲン金沢」を誕生させた。06~09年は北信越地域リーグ。09年の全国地域リーグ決勝大会で3位となり、入れ替え戦でJFL昇格。10~13年はJFL。14年にJ3へ昇格。15年からJ2に新規参入。

 ◆Jリーグクラブライセンス制度 13年度から導入された。ライセンス交付には、競技、施設、人事体制・組織運営、法務、財務の5つの基準がある。各基準は達成が必須のA、ライセンスを交付するが処分対象となるB、必須ではないが、推奨されるCの3等級に分けられる。例えば、施設基準には「スタジアムの入場可能数がJ1なら1万5000人以上」などの項目がある。クラブは6月30日までに未達成の項目について、達成するための計画のめどを立てた上で申請書類をそろえ、ライセンス事務局に提出する。