19日午後2時、さいたま市大原サッカー場。浦和の選手たちは広島から新幹線で地元に戻ると、そのまま練習場に直行してきた。
クラブハウスの軒先。スパイクのひもを締める選手の列に、MF柏木陽介(28)が加わった。
一瞬、微妙な雰囲気になった。柏木は前夜の広島戦で、自陣ゴール近くでの横パスをさらわれ、広島FW佐藤に得点を許す痛恨のミスをおかしていた。
どう声をかけようか-。そんな空気を察知したのか、柏木が自ら切り出した。「アシストついてしまうくらいのプレーやった」。そして遠征に帯同していなかったメンバーに、事細かに状況を説明しだした。
思い出すだけでも、つらいはずのプレーだった。
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広島戦は右ふくらはぎ痛のため、公式戦20戦ぶりのベンチスタート。しかし後半、2-3と再逆転されたチームをなんとかしたいと、猛然とウオームアップのペースを上げた。
そして同28分、強行出場のピッチへ。しかし、試合前2日間、まともにボールも蹴れなかった司令塔は、本来の姿からかけ離れたプレーに終始した。
そして「サッカー人生でも経験がない」というミスで、ダメ押し点をプレゼントしてしまった。
試合後、スタンドのサポーターからは容赦のない罵声が飛んだ。モノが投げ付けられ、水までかけられた。それでも柏木はスタンドに向けて両手を合わせ「ごめん」と何度もわびた。
広島戦の直前まで、公式戦19戦連続先発。日本代表でも今月初旬のキリン杯で2戦連続で先発し、疲労は極限まで蓄積していた。それでも柏木は「言い訳にはできん」と首を振った。
「謝って済むようなミスちゃうから。自分でも信じられんくらいのミス。みんな、お前だけのせいちゃうぞとかばってくれるけど、誰のせいでもなく、オレのミス」。そう言って、自分を責め続けた。
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ミスの回顧が終わると、柏木は勢いよくピッチに飛び出した。他の選手と同じように、ランニング中心のメニューをこなした。
疲労蓄積を鑑み、別メニュー調整を行っても、誰も文句は言わないだろう。しかし、柏木は走る。チームのためには、今やるしかない。その一心で走る。
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FW興梠慎三(29)は、大原サッカー場に戻ると、遠征に同行していなかったDF永田から声をかけられた。「ループシュート、惜しかったな」。
しかし興梠は首を振った。「決めないと」。
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広島戦後。真っ先にロッカールームでの身支度を終えた興梠は、取材対応の後、真っ先にチームバスに乗り込んだ。
他の選手が取材対応をしたり、関係者にあいさつをしている間も、バスの中でじっと考え込んでいた。
気づけば、1時間近くがたっていた。すべての選手が乗り込んだが、バスは動いていなかった。
スタジアムの外では、説明を求めるサポーターとクラブ幹部が、話し合いの場を持っていた。その関係もあり、バスはすぐに出発できなかった。
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「オレが決めていればね」。興梠は力なく、前夜のことを振り返った。
手倉森監督に高く評価され、リオデジャネイロ五輪に出場するU-23日本代表に、オーバーエージ枠で選出されることが決定的になっている。
だが頭の中は、クラブのことで一杯だった。点を取りたい。チームを何とか立て直したい。
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広島市内の宿舎。GK西川周作(30)は自室でひとり、欧州選手権のポルトガル対オーストリア戦のテレビ中継を見ていた。
日本時間19日午前4時キックオフの一戦。だが決して、この試合を待ちわびていたわけではない。
「悔しくて、まったく眠れませんでした」
広島戦を終え、宿舎の自室に戻ると「Jリーグオンデマンド」で試合の動画を見た。
普段は失点シーンを中心にチェックするが、この日はベッドに入る気になれず、結局90分間まるまる視聴した。
失点を重ねた悔しさがよみがえり、かえって眠れなくなった。ポルトガル対オーストリア戦の終盤、C・ロナウドがPKを外す場面も、何となく見届けてしまった。
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新幹線で仮眠を取ったのみ。しかし大原サッカー場に戻った西川は、疲れたような表情など、一切みせなかった。
そして練習が終わると、すぐに分析担当の長嶺コーチを呼び止めた。「塩谷の1点目なんだけど…」。
CKから同点弾を許した場面について、事細かに問題点を話し合った。
「動画を見ましたけど、やっぱり前半はいい内容だったし、目指しているサッカーは間違っていないと確信しています。ただ、結果が出ていない以上、自分たちを見つめ直す必要がある。いい時と比べて、何ができていないのか。何が足りないのか。問題点を1つ1つ検証しないと。僕たちは失敗からきちんと学ばないといけない」
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浦和は広島に敗れたことで、第1ステージ優勝の可能性が消えた。4戦連続無得点のトンネルは抜けたが、それでも勝てなかった。
選手たちは「1点取れれば流れは変わる」と口をそろえていた。現実はそうはいかなかった。今季最多の4失点で逆転負けと、内容的にもショックは大きい。
しかし、試合は待ってはくれない。22日東京戦、25日神戸戦と、ホーム戦が立て続けにやってくる。
たとえ第1ステージ優勝がなくとも、年間勝ち点1位、そしてJリーグ年間優勝を目指す上では、しっかりと勝ち点を重ねる必要がある。
浦和以外のACL出場クラブは、リーグ第1ステージ優勝戦線から早々に離脱した。しかも浦和は東京とともに、決勝トーナメント1回戦まで進出した。例年同様、アジア転戦掛け持ちの過密日程の影響は、確実にある。
しかし浦和の選手たちはプロとして、何とか自分たちの中に敗因を見いだそうと試みる。それぞれに悔しさをかみしめながら、浦和が再起の第1歩を、懸命に踏み出そうとしている。【塩畑大輔】