34歳の若さでこの世を去った松田直樹さんの元に、横浜MF中村俊輔(33)や横浜FCのFWカズ(三浦知良=44)らが訪れた。エネルギッシュなプレー同様に、発言でも多くのサッカー選手を勇気づけてきた。「マツの分まで」。安らかに眠る姿を目にし、これからのサッカー人生の完全燃焼を誓っていた。

 午後4時56分。俊輔は横浜から車を飛ばして松田さんが眠る病院へ駆けつけた。Tシャツに短パン姿でチームメートのGK榎本、秋元と訪問。4日午前の練習を終え、車で移動中に一報が入った。午後6時24分にはカズが喪服姿で訪問。5分間対面したカズは「世界に通用する優秀なDFだった」と声を絞りだした。

 2日に倒れた松田さんの体には無数の医療機器がつながれ、懸命の治療が施されていた。俊輔は「連絡があって機械が外れたと。いよいよかと思った」。病院に到着した俊輔ら3人は口を横一文字に閉じ、こらえるような表情を見せていた。その40分後、対面を終えて報道陣の前に姿を現した俊輔の目は真っ赤だった。「今は…そうですね」。気持ちの整理をつけてから話し始めた。

 兄貴のような存在と、俊輔は松田さんとの思いを語る。厳しい言葉を投げかけてくれたのも俊輔を思ってのこと。昨年のW杯南アフリカ大会でベンチを温める状況に「お前の出ない試合はつまらないから見てない」と連絡があったという。カズは松田さんの10歳年上。代表でも共に戦った時間は短く、接点は少ない。それでも「自分を目標にしてくれて刺激になった」と感謝していた。

 俊輔には忘れられない思い出がある。試合前日に松田さんにごちそうしてもらうと、翌日の試合で俊輔のアシストから松田さんがゴールを決めたという。「それも2回も」。この話題になると、いつも松田さんは満面の笑みになった。カズの思い出は95年のチャンピオンシップ。「ヴェルディとマリノスでマリノスが勝ったんだけど、確か彼は1年目で。とても優秀で僕にとって厄介だった」。

 JFLへ移籍した松田さんに俊輔が「J2に上げるの?」と尋ねると一喝された。「バカじゃん。J1だよ」。俊輔は「お母さんから『本人は、マリノスも優勝だから、と言ってましたよ』と言われて。僕もやらないと」と決意を新たにしていた。カズも「お母さんから本人の分まで頑張ってください、と。どこまでやれるか分からないけど、頑張ってやりたいです」。松田さんの熱く、真っすぐなサッカーへの強い思いは、これからも生き続けていく。【加納慎也】