シャムスカ監督(48)率いるJ2磐田が10日、鹿児島キャンプを打ち上げた。先月20日に新体制が始動してから約3週間あまり。キャンプでは連日、笑顔で始まり、戦術練習でのピッチでは各選手の意見が飛び交う。練習試合は4戦全勝で9日にはJ1浦和に逆転勝ちした。同監督は05年に降格圏だった大分を残留させ、08年には大分でタイトルを獲得し「シャムスカ・マジック」と話題になった。磐田でも、コミュニケーションがよくなり、チームがファミリーとして進化し始めている予感を抱かせる。その監督にチームへの思いを聞いた。

 今季の最大の目標は1年でのJ1復帰だ。昨季はリーグ戦でわずか4勝と低迷し、クラブ史上初のJ2降格となった。監督の目に、昨季の戦いはどう映っていたのだろうか。

 シャムスカ監督

 攻撃面では横パスと縦パスは多いが、シュートが多くないのは一目瞭然だった。守備ではクロスボールとセットプレーからの失点が多かった。あと、方々から情報を得たところ、まとまりがなかったと。人間味がない部分があったと聞いていた。

 監督が考える基盤は「チーム=ファミリー」。まとまりは絶対条件だ。チームを率いる際、思い出すビデオがある。米歌手の故マイケル・ジャクソンさんら45人のトップ歌手が、アフリカを救うために一致団結した楽曲「We

 Are

 The

 World」の製作ドキュメントだ。スターらがスタジオの扉前で交わした合言葉は「謙虚な心で(エゴを捨てろ)」だった。

 シャムスカ監督

 誰がイントロ、誰がサビを歌うかは考えない。名の知れたスターばかりなのに、逆に主役が誰もいない。チームに入る時、必ずそのエピソードを思い出す。いつもスタッフと選手に伝えているのは「みんながベストを尽くすように」。その関係を与えるのが監督の仕事。スタッフ、選手、フロントの関係の中で隔たりはない。

 就任直後、まず選手に説いたのはコミュニケーションの重要性だった。大分を指揮していたころから「いつも監督室の扉は開いている」と語ってきた。

 シャムスカ監督

 部屋の扉はもちろん、いかなる場所でもオープンだ。実際、今は練習後に、いろんな選手が、質問をしに来てくれる。伊野波(雅彦)松井(大輔)は毎回、来てくれます。大分時代は、よく選手からアイデアを得て戦術を考えていたこともあった。

 また「11人では試合に勝てない。勝つためにはグループ全体の力が必要」と説く。現在はチーム戦術の基盤を築くため、主力、サブと明確に分けての練習が続くが、サブ組のモチベーション低下の懸念はないのだろうか?

 シャムスカ監督

 最近の練習試合では阿部(吉朗)が前田(遼一)の代わりに入っていい仕事をしてくれた。みんなのモチベーションが一緒になるところが大事で、そうやってチームは強くなると思う。試合では3人交代枠がある。たとえば山崎(亮平)。すごくレベルが高い。彼の場合はレギュラーになる可能性はあるが、試合を決めに行くために必要。スピードがあり、相手が疲れている時に入るとさらに輝く。ボランチの小林(祐希)、山本(康裕)もとてもクオリティーが高い。でもサッカーはルールで11人しか出られないので(笑い)。努力していれば必ずチャンスがくるといつも伝えている。さらに、彼らも(若手を抜てきした)大分時代のことを知っていると思う。

 昨季の試合で感じた課題を打破するために、シュート力を持つポポ、松井、フェルジナンドを獲得した。山田大記にもさらにシュートの意識を持つように意識付けをしているという。実際、9日の浦和との練習試合ではフェルジナンドの1発で勝利した。守備にも「センターバック、ボランチがよくはまっている」と手応えを感じている。昨季、チームのリーダー不在がささやかれたが、監督はこう言い切った。

 シャムスカ監督

 チームがまとまっている状況では簡単にリーダーが現れてくる。代表レベルで経験もあり、リーダーシップがある選手はいっぱいいる。駒野(友一)、伊野波、前田、山田、松井。リーダーに関しては、探す必要がない。菅沼(駿哉)もいつも声を発している。

 監督歴は約20年になる。02年、中堅クラブのブラジリエンセを率いコパ・ド・ブラジルで名門コリンチャンスと接戦の末に準優勝、04年にサント・アンドレ時代は、同杯で強豪フラメンゴを下して優勝した。この経験を「監督が天職と感じた瞬間」と振り返る。日本でも「大物食い」は健在で、降格危機の大分を残留させ、後にナビスコ杯優勝に導いた。

 シャムスカ監督

 コミュニケーションだけでなく、自分がいる時期に、チームにいい選手がいたから。大分では若手がみんな、後にビッグクラブに移籍した。あんな若くて素晴らしい選手が集まっている場所はそうはない。今回の磐田もそう。神様がちゃんと、いろんな選手を送り込んできてくれる(笑い)。

 大分時代、当時の溝畑宏社長が勝利の度に、好物のハーゲンダッツのアイスクリームとコーヒーで乾杯した。磐田の高比良慶朗社長は「監督はアイスは太るというから…。別に何がいいかな」と思案中だ。

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 ブラジルでは習慣として寝る前に1杯、赤ワインを飲む。ワインでお祝いしましょうか(笑い)。

 J1復帰はもちろん、天皇杯優勝からACL出場も新たなモチベーションの糧になると感じている。徐々に芽生えつつあるチームのまとまり。チームが真のファミリーに進化した時、必ずJ1復帰を果たしているに違いない。【構成・岩田千代巳】

 ◆ペリクレス・レイモンド・オリベイラ・シャムスカ

 1965年9月29日生まれ。ブラジル・バイア州サルバドル出身。ユース世代までプレーし、プロからの誘いもあったが、フィジカルコーチを目指し大学に進学。92年にビトーリアで監督に。サンタクルスやコリンチャンス、ボタフォゴなどを指揮した。05年シーズン途中から大分を指揮。08年にはリーグ最少24失点、1試合平均0・71失点で4位。家族はジュリアナ夫人と1男1女。