<J1:清水0-0甲府>◇最終節◇6日◇アイスタ

 苦しみながらも耐えて、そして生き残った。清水は甲府に引き分け、大きな大きな勝ち点1を獲得。自力でJ1残留を勝ち取った。序盤から理想を捨て、“残留仕様”のサッカーを徹底。甲府に倍近いシュート9本を放たれたものの、守備陣を中心に体を張ってゴールを死守した。運命の一戦を全員で乗り切った。

 オレンジ色に染まったホーム・アイスタが安堵(あんど)感に包まれた。J1残留を決めるホイッスルが会場に鳴り響くと、重圧に襲われていた清水イレブンの表情がようやく緩んだ。FW大前元紀(24)はその場にしゃがみ込み、拳を握った。FWノバコビッチ(35)はGK櫛引政敏(21)と抱き合った。

 勝って締めくくることはできなかったが、選手、クラブ、サポーターが団結してつかんだ残留だ。勝利時恒例の「勝ちロコ」も解禁して、会場全体で喜びをわかちあった。大榎克己監督(49)は「泥臭いサッカーになってしまったが、選手は集中力を切らさずに最後まで本当によく耐えてくれた」と胸をなで下ろした。

 あえて理想は捨てた。引き分け以上で残留が決まる一戦だけに、徹底的に先制点を失うリスクを避けた。序盤からDFの背後にロングボールを多用。指揮官は「相手ボールになっても、スローインやゴールキックなら問題ない」。甲府のストロングポイントであるカウンターを消した。

 “残留仕様”の戦術に気持ちもかみ合った。DF平岡康裕(28)は前半に左足首を捻挫。一時は担架で運び出されたが「絶対にプレーをやめたくなかった」。ハーフタイムに痛み止めの注射を打ってピッチに立ち続けた。DFヤコビッチ(29)も前日練習で右足に3針を縫うけがを負ったが、フル出場。ゴールだけは許さなかった。

 泥臭くても必死にもぎ取った勝ち点1で、93年のJリーグ開幕からJ1で輝き続けてきたオレンジの光をつないだ。大榎監督は「この厳しい状況を乗り越えた選手の成長は間違いない。チームの絆も確実に増した」。MF本田拓也(29)も「ここで感じたことを全員が意識していけばチームは成長できる。来季は上位争いに食い込みたい」と言った。この経験が、必ず来季の躍進を支える財産になる。【前田和哉】