【マインツ(ドイツ)28日=栗田成芳】マインツFW武藤嘉紀(23)に、地元紙記者たちが社交辞令抜きの現実的なジャッジを下した。ブンデスリーガ開幕からドイツ杯と合わせ3試合に出場した武藤について、ドイツ2大紙のマインツ担当が語った。ビルト紙ペーター・デル記者と、キッカー紙のカーステン・シュレーター記者の両氏は、一定の評価をしつつも課題を挙げた。武藤は今日29日のハノーバー戦の後、W杯アジア2次予選のため帰国する。

 鋭い視線が、武藤に注がれた。練習前からサインを求める地元ファンたちの温かさとは違ったまなざしが、ピッチを走る武藤をとらえていた。ハノーバー戦ではFWでの先発が濃厚。前線からの豊富な運動量で初勝利をもたらしたボルシアMG戦(23日)での貢献度からも、地元記者はスタメンに予想。ビルト紙でマインツ取材歴9年、54歳のペーター記者は話し始めた。

 ペーター記者 私が思うに彼にはまだもう少し時間が必要だろう。ドイツではそれが普通だ。ブンデスリーガに慣れるために、1シーズンも必要になった選手だっている。(ボルシアMG戦1得点1アシストのMF)クレメンスだってそうだ。マインツになじむのに半年かかった。ここでのサッカーが他の国より上だという話ではない。ただ、ここでのサッカーが他の国とは違うことに慣れなければいけないんだ。90分間休むことなく、走り続け、戦わなければならないんだ。そんなに簡単なものではない。

 海外初挑戦からリーグ戦わずか数試合で結果が残せるほど甘いモノじゃない-。オブラートに包みながらも、冷静に客観的な評価を下す。活躍をするには、時間を要するという意見に、サッカー専門紙キッカーの若手記者・カーステン記者も同調。特にオフサイドの数を指摘した。

 カーステン記者 まだ味方との呼吸が合っていないから、ボルシアMG戦では5度オフサイドになった。タイミングを合わせなければいけないが、今の段階ではできないのが普通のこと。あれだけ走り続けていたら、最後にスタミナが切れても不思議ではない。

 あとは時間が解決する、とは限らない。結果を残さないまま何度もチャンスがもらえる世界ではない。それは武藤が一番理解し、危機感を抱いている。取り組むべき課題は何か。

 ペーター記者 身体的に強靱(きょうじん)でハードにならなければいけない。相手の守備を突破するために、チャージを受けながらも抜けだしていくことができれば、成果を挙げることができる。彼には、スピードがある。ボールを持ったときの技術もあるんだ。

 スピード、技術にもう1つ。ドイツ人記者が合流からわずか2カ月で認めたことがある。

 カーステン記者 彼は自分がうまくいかないときでも文句を言わない。「俺はFWでボールが必要だ! ゴールしたいんだ!」という選手ではない。チームのために仕事をし、チャンスをつくりだすために走り続ける。こういう姿勢やメンタリティーは、すごくチームに合っている。

 ボルシアMG戦で両足をつりながら、最後までボールを追いかける姿に胸を打たれたのだろう。マインツに2年在籍し27得点を決めたレスターFW岡崎を、日本人NO・1と言うペーター記者は、最後にこう締めくくる。「君たち日本人だけが今以上のものを求めている」。今の武藤は厳しくも温かく見守られている。

 ◆ビルト紙とキッカー紙 ビルト紙はドイツで毎日発行される新聞。有名人のゴシップネタが多いが、スポーツではブンデスリーガを中心にサッカーを掲載。欧州一売れているとされ、1部0・80ユーロ(約110円)。キッカー紙は週2回発行のサッカー専門紙。ブンデスリーガ1部だけでなく4部以下まで幅広く網羅。欧州サッカーのニュースも多い。1部2ユーロ(約270円)。2紙とも毎試合ごとに出場した選手の採点を行っている。