女子やり投げの海老原有希(29=スズキ浜松AC)が、2年ぶりに自身が持つ日本記録を97センチ更新する63メートル80で日本人最高の4位になった。昨年2月の左足首の故障から完全復活し、日本陸連の定めた派遣設定記録(63メートル34)も突破し、8月の世界選手権(北京)代表に前進。成熟期を迎えた第一人者が、女子投てき選手日本人初の入賞を狙う。

 「あ!」。海老原が去年は1度もなかった感覚に震えた。2本目。記録は60メートル53だったが、予感があった。5本目、再び「きた!」。雲ひとつない晴天に飛び出したやりは、遠く63メートル80先の芝生に突き刺さった。珍しくその場で自分も跳び上がり、拳を突き上げる。「自画自賛です」「みなさんお待たせしました」。スタンドを振り返れば、大喜びする母房子さんの姿。「母の日に良い贈り物になった」と破顔した。

 164センチの小柄な体で、海外勢と渡り合う術は走力。100メートル12秒60の助走で生んだ力をやりに伝えてきたが、その勢いが故障の一因になった。昨年2月に左足首を圧迫捻挫。残りの競技人生を考え、武器を再検討した。岡田コーチは「7年間60メートルを投げてきた。イケイケドンドンでやってきたが、肩の使い方、肘、助走などを見直した」。この日は助走速度を生かしながら、従来より胸を張る新フォームで結果を残した。

 11年世界選手権では女子投てき日本人初の決勝進出(9位)。12年ロンドン五輪では選手団主将も務めた。陸上界に確固たる地位を築くが、ストイックさは変わらない。所属のスズキでは平日は朝9時から正午まで総務部総務課で給与管理などを担当。ドーピング検査で欠勤した1日以外は無遅刻無欠勤。「陸上界のエビちゃん」は、きまじめでおごらない。メリハリある生活を競技の力に変える。

 63メートル80は今年の世界9位。8月の世界選手権では初の入賞も視野に入れる。信念は1つ。「外国人がどうでもいいと思う細かいところで勝負したい」。走力を生かす技術の追求は続く。【阿部健吾】

 ◆海老原有希(えびはら・ゆき)1985年(昭60)10月28日、栃木県河内郡上三川町生まれ。真岡女子高入学後にやり投げを始め、3年時に高校歴代4位の50メートル98、インターハイ7種競技で優勝。国士舘大から08年にスズキ入社。14年日本選手権では3年連続7度目の優勝。アジア大会は10年1位、14年4位。世界選手権は11年9位、13年予選敗退。164センチ、68キロ。