マラソン9度目の佐々木悟(30=旭化成)がリオ五輪に名乗りを上げた。35キロ手前まで先頭集団でレースを展開。自己記録を51秒更新する2時間8分56秒で日本人トップ3位に入った。10月に所属先の子会社が関わる「くい打ちデータ改ざん問題」が発生。招待選手ではなく一般ランナーとして力走して夢の舞台に近づいた。パトリック・マカウ(30=ケニア)が2時間8分18秒で大会連覇を果たした。

 限界が近づいていた。競技場トラックのラスト1周。佐々木は、時計を見て「目標(2時間8分前半)に届かないな」。その時、第1コーナーにいた宗猛総監督(62)の叫び声を聞いた。「9分を切れ!」。顔をゆがめて腕を動かした。残り4秒で8分台に滑り込みリオに名乗りを上げた。

 「うれしいのと悔しいのと半々ぐらい。タイムをもう少し出したかったが、しっかりと走り切れた」

 昨年3月のびわ湖毎日で初のサブテン(2時間10分以内で走ること)を達成。だがその後タイムが伸びない。今春には「箱根のスター」双子の村山兄弟が加入。「昨年は全くだめ。強力な新人が入って駅伝も(メンバー外で)走れなくて。このままだとどうなんだろう」。名門の主将3年目だったが、存在意義を見失いかけた。

 マラソンにかけた。だが夏の大分合宿で体に力が入らず、チームの最後尾を走る屈辱を味わった。わらにもすがる思いで、9月に東京で検査を受けた。体内に脂質が足りず、左足が右足の半分しか使えていなかった。妻彩さん(27)にごま油を使った食事療法を頼んだ。早食いの癖を直すためひと口ごとに箸をテーブルに置いた。妻に「今日は早くない?」と言われつつ3キロ減量で体質を改善した。

 手応えをつかんだ10月。子会社の「旭化成建材」が関わる「くい打ちデータ改ざん問題」が表面化。宗猛総監督は「社員や家族の方を勇気づける。こういう時こそ頑張らないと企業スポーツの意味はない」と訓示を受けた。招待選手から一般ランナーとなったが「自分がやるべきことをやる。招待でも一般でも変わらない」と佐々木。世界歴代4位のマカウらを追い、粘りを見せて表彰台に立った。

 「まだタイムは伸ばせる。(妻に)食事の面で苦労をかけた。また気をつかってもらう期間が長くなりますが…」。今月15日は結婚2周年と妻が28歳になるメモリアルだ。「妻にありがとうと言いたい。記念日に向けて(結果が出て)そこが一番良かった」と笑った。【益田一弘】

 ◆佐々木悟(ささき・さとる)1985年(昭60)10月16日、秋田県生まれ。中学まではソフトテニス部。秋田工高で陸上を始めて大東大-旭化成。大東大では1年から4年連続で箱根駅伝に出場。12年春から旭化成の主将就任。日本陸連の14年度マラソンナショナルチームメンバー。家族は妻彩さん(27)。171センチ、56キロ。

 ◆リオへの道 男子マラソンの代表枠は最大3人。福岡国際、東京(来年2月28日)びわ湖毎日(同3月6日)の3大会から選ぶ。各レースの日本人上位3位以内が対象で日本陸連設定記録2時間6分30秒を満たした1人を優先に、五輪で活躍できる選手を選ぶ。今大会の結果でまず佐々木、高田、大塚の3人が候補となった。複数の選考会に出場した場合は設定記録に到達しない限り、最初のレースが評価対象になる。