男子100キロ超級は、原沢久喜(23=日本中央競馬会)が七戸龍(27)との決勝を優勢勝ちで制して初優勝を飾り、リオデジャネイロ五輪代表に大前進した。国際大会7連勝中の勢いのままに、ライバルから終盤に内股で有効を奪った。同級の代表は29日の全日本選手権(日本武道館)の結果も踏まえて決まるが、大きな勝ち星となった。

 その瞬間、原沢は七戸の首横の襟をつかんでいた。その持ち方に、歩んできた柔道人生が詰まっていた。

 残り30秒。指導を2つ取られて焦った七戸が、強引に奥襟を持ちに来た。すなわち好機。「疲れてきているのも感じていた。我慢してきて、収穫があった」。引き手の左手は通常の袖口ではなく右胸をつかみ、釣り手は奥襟ではなく、あえて首筋の襟。後ろに下がりながらの難しい姿勢で内股を仕掛ける。歯を食いしばり、120キロ超えの七戸を畳から引っこ抜いた。ドスン! その後に響いた「有効」の審判の声。

 勝負ありの一撃のルーツは高校時代にある。山口・早鞆高入学時は66キロ級。そこから高3の終わりに100キロ超級になった異色の経歴を持つ。高1では自分より小柄な相手が多く、指導した中村監督は「懐の深さを生かすために奥襟ではなく、横襟を持たせた」。持つ位置の小差で、有利に運ぶ空間を作り出した。重量級ではがっちり奥襟を持ち引きつける形が定番だが、原沢は違う。「組み手のバリエーションは増えた」と自負するスタイルがある。

 1回戦では左腕を相手の右脇から背中に回して接近しての大内刈り。ロンドン五輪代表だった上川との準決勝では、大内刈りでぐらつかせると、追い足軽快に一気に5メートルほども前に。隅落としで2戦連続の一本勝ちで、日本男子の井上監督も「全日本(選手権)も期待できるし、その先も心強い」と目を細めた。

 その先は当然リオ五輪だろう。七戸にはこれで4連勝。昨年12月のグランドスラム(GS)東京前、所属先になぞらえて「2、3馬身」と分析した差は、同大会の優勝で「1馬身」になり、2月のGSパリ大会の優勝で初めて前に出た。今大会の勝利でその差は実質的には2、3馬身といったところか。本人は「ゴールまで分からない展開。過信せずに」と手綱は緩めない。ゴールのその先に突き抜ける。【阿部健吾】

 ◆原沢久喜(はらさわ・ひさよし)1992年(平4)7月3日、山口県下関市生まれ。早鞆(はやとも)高3年時に高校総体100キロ超級3位。日大進学後に成長し、2年の学生体重別優勝。13年の全日本選手権準優勝で注目を集める。15年に日本中央競馬会に入り、直後の全日本選手権で初優勝。国際大会は初優勝だった14年グランプリ青島から7連勝中。得意技は内股、大外刈り。191センチ、124キロ。

 ◆男女の代表選考 枠は各階級1枠。16年5月30日時点で男子は世界ランキング22位以内、女子は14位以内に出場資格が与えられる。さらに、国内選考があり、国内外大会の2年間の成績をポイント換算し、参考材料としている。最終選考会の今大会最終日(3日)終了直後に強化委員会を開いて男女全14階級中12階級の代表を選出し、同日中に発表。超級のみ、男子は全日本選手権、女子は全日本女子選手権の結果を踏まえる。これまでの国際大会などから、選抜体重別の結果を待たずに代表選手が実質的に決定しているのは14階級中11階級。今大会の成績が影響するのは男子100キロ超級、女子48キロ、70キロとなる。