昨年からリオデジャネイロ五輪を最後に、現役を終えるとイメージしてきた。代表権を逃したことで引退が8月から4月に早まった。次は生まれ育った東京で五輪が開かれる。4年後の日本選手権も決勝に残る自信はある。ただそれでは五輪に出られない。世界で勝負できなければ気持ちは続かないし、面白みもない。僕には引退の選択肢しかなかった。

 昨年11月に続き、今年3月にはスペイン高地合宿に参加。とても良い練習ができていたが、終盤に疲労から崩れた。もともとへんとうが弱いこともあり、40度の高熱が出た。近年は慢性的に腕、肘、膝が痛んだ。追い込みすぎると、すぐに体調を崩す。歯がゆくて何度もあきらめそうになった。支えは、もう1度五輪の決勝レースで泳ぐとの思いだった。

 目の前に五輪出場のチャンスがある。04年のアテネ五輪で初めての金メダルを取ってから国内大会では闘志をかきたてられなくなった。最高の舞台で、もう1度選手として興奮したい。その思いが、折れそうな心を支えた。限界までやり尽くそう。自らを奮い立たせた。五輪選考会を兼ねた日本選手権前には高熱も下がった。100メートルの自己ベストでもある日本記録を狙うと、宣言できる状態で大会を迎えた。

 5大会連続五輪出場はならなかった。レース後は悔しさと同時に、すがすがしく晴れ晴れしい気持ちになれた。結果はどうであれ、そこまでの過程で非常に満足いく練習ができたし、悔いは残さなかった。最後まで攻めのレースもできた。全力でやりきったと心から思えるから、引退後も落ち込んだり、終わったなと思うことはない。引退後の人生の方が長い。これからは現役時代に見つけられなかった新しい発見もあるはず。そう考えると前向きだし、今後の人生にワクワクしている。

 水泳はどんなスポーツよりも平等。風はないし、道具も使わない。体重制限もない。対水。あるのは水の抵抗だけ。パワーで水の抵抗に対抗する外国人に対して日本人は技術で対抗する。特に平泳ぎは、足をひきつけるときに0秒06から0・1秒止まる瞬間がある。だからこそ、自分も平井コーチと究極の技術を磨き、外国人と戦った。体格で劣る日本人にもチャンスが広がっているのが水泳だし、それが魅力だと感じている。

 リオ五輪が約2カ月後に迫る。(萩野)公介、(瀬戸)大也、(金藤)理絵、(星)奈津美ら金メダル候補がいる。日本代表の前でも話したけど、金メダルを取る方法なんてものはない。ただ、僕から言えるのは各自で個の力を高めること。あとはこの土壇場にきて、今までと違うことを導入するのはあまり良くない。過度に自分にプレッシャーをかけず、悔いを残さない練習を積む。後輩たちには厳しい一発選考を乗り越えた戦う集団として誇りを持って五輪に挑んでほしい。(おわり)