【モントリオール(カナダ)9月29日(日本時間30日)=高場泉穂】こだわるのは「質」だ。羽生結弦(21=ANA)が、今季初戦オータムクラシックの前日練習を行い、今季から取り入れる4回転ループを見事に着氷した。1週間前にジュニア男子選手が国際スケート連盟(ISU)公認の試合で初めて同ジャンプを着氷。ただ成功とは認められなかったため、羽生が決めれば世界初。「クオリティーの高いものを目指す」と誓った。

 フリー曲「ホープ&レガシー」のピアノの音が流れ、羽生がゆっくりと滑り出す。最初の4回転ループを柔らかく着氷すると、大きな拍手がリンクに広がった。途中の部分を省いたが、3種類の4回転ジャンプ4本を軽々と跳び、流れるような演技を観客の前でみせた。練習後は「氷の感触がいい。気持ち良く滑れた」と満足げ。今季初挑戦の4回転ループは事前に練習せず、曲の中でいきなり成功。「最高の時の70%ぐらい。イメージ通りにやれている」と自信をのぞかせた。

 誰も試合で成功していなかったこのジャンプを、先週23日のジュニアグランプリシリーズ・スロベニア大会で、16歳のアレクセイ・クラスノジョン(米国)がフリーの冒頭で跳んだ。記録に残り認定はされたが、着氷時に手をついたとしてISUは成功と認めていない。今大会で羽生が成功させれば世界初となるが「元から『世界初』とか、気にしなかった。4回転ルッツを先に跳ばれているので、自分がそれより下の難易度のループを跳ぼうが、別にうれしくもなんともないです」と笑顔で受け流した。

 見つめるのは全体の質だ。「1つのジャンプでは、そんなに点数の差はない。すべてのジャンプ、すべてのエレメンツ(要素)で質の高いものを目指すことが、一番僕のすべきこと」。昨季マークしたSP、フリーの最高得点は、1つ1つの要素の出来栄えと表現力で大きく点を上積みし、生まれたもの。オーサー・コーチが「合計340点超えはあるかも」と話す今季のSPとフリー。初戦から羽生が狙うのは「ノーミス」。4回転ループは、そのたった1つの部分だ、と言わんばかりだった。