完全燃焼した。リオデジャネイロ五輪男子73キロ級金メダルの大野将平(25=旭化成)が2回戦で池田賢生(28)に延長戦の末、一本負けした。

 試合開始9分54秒。大外刈りを受けて、背中が畳に付いた。天井をじっと見上げた。「小細工せずに真っ向勝負がしたかった。後悔はない。自分の信念を曲げずに畳の上で表現できたと思います」。潔く負けを認めた。

 73キロ級の時と同じで、無差別でも正統派の柔道を貫いた。しっかり両手で正しく組んで、技をかける。得意技の内股と大外刈りは何度も仕掛けた。100キロ級の池田を浮かせる場面もあり、会場を沸かせた。「大野選手頑張れ」と子どもたちの声援も響き、全日本選手権9連覇した山下泰裕氏や64年東京五輪軽量級(68キロ以下)金メダルの中谷雄英氏らも食い入るように見守った。出場43選手の中で一番小さい170センチ、78キロの大野の姿が頼もしく、また大きく見えた。

 リオ五輪では5試合中4試合で一本勝ちという圧倒的な強さで優勝。金メダリストの使命として「より多くの方に柔道を楽しんでもらいたい」という気持ちもあり、今大会の挑戦を決意した。この日の試合後の取材では報道陣に「皆さんはどうでしたか? メディアや観客の皆さんに評価を聞きたいです」と逆質問する場面もあった。20年東京五輪を目指す上で、けがのリスクがありながらも体重が重い仲間と乱取りをしてきた大野が重量級選手に勝つことが難しいと一番理解している。「負け」という文字が浮かぶ全日本選手権にあえて挑戦する。来年以降の挑戦については「もちろんある」と即答した。これが大野将平。柔道家としての誇りを持って歩み続ける。