<卓球:全日本選手権>◇最終日◇17日◇東京体育館

 男子シングルスで、磐田市(静岡)出身で日本のエース水谷隼(20=明大)が史上最多タイの4連覇を果たした。準決勝で張一博(東京アート)にゲーム1-3、あと2失点で敗れる絶体絶命の窮地から逆転勝ちすると、決勝では2年ぶりの対決となった吉田海偉(個人)を新サーブで翻弄(ほんろう)。ストレートで勝ち、4年連続4度目の栄冠を手にした。4連覇は、85年度の斎藤清以来25年ぶり3人目。ダブルスとの4年連続2冠も同年度の斎藤清と並ぶ最多タイとなった。

 胸の中の重圧をはき出すように水谷は、右手で左手で、何度もガッツポーズした。大会前は思うように眠れず、逃げ出したくなるほどの衝動に襲われた。20歳になり毎日、ハイボールなどの酒で気を紛らわせた。それだけの重圧を、最後は力でねじ伏せた。「うれしいよりもホッとした。不安や重圧がたくさんあって、その中で勝てたので。もう、このまま(卓球人生を)終わりたい」と笑わせた。

 1度はあきらめかけた。準決勝の張戦。ゲームカウント1-3でスコアは7-9。自らタイムを取った時「終わったと思った。今年はあっという間だったな…って」。だが、再開直後に相手のミスで8-9になると、今度は張がタイム。「体力的に休みたかったのでラッキーだった。1ゲームでも多く試合がしたいと思った」と気持ちが変わった時、流れも変わった。31度も続く長いラリーをモノにして、このゲームを逆転。勢いのまま一気に連取した。

 迎えた決勝は圧巻だった。アテネ五輪金メダルの柳承敏(韓国)らに習って2カ月前に新サーブを取得。サーブ直後にラケットを真上に引き上げ、球筋を分からなくさせた。さらに20種類もの独自サーブを次々と繰り出して幻惑。「あのサーブを出せたから勝てたと思う」。自画自賛だった。

 1月の世界ランクで10位入り。小野誠治以来、30年近く閉ざされていたトップ10の扉を開けた。今年は再び海外リーグに挑戦。5月には世界選手権団体戦にも臨む。「中国選手を1回でも多く倒せる年にしたい」。「新成人」水谷の1年は、最高の形で幕が開けた。【今村健人】