<競泳:競泳国際大会代表選手選考会>◇最終日◇11日◇静岡・浜松市総合水泳場

 日本水泳界のやんちゃ坊主が、一気にロンドン五輪金メダル候補に名乗りを上げた。激戦区となった男子200メートル平泳ぎ決勝は、冨田尚弥(21=中京大)が、日本歴代2位タイで昨年の世界最高に相当する2分8秒25で派遣標準記録を突破。1位で世界選手権(7月・上海)代表に内定した。男子50メートル背泳ぎでは第一人者の古賀淳也(23)が、最終種目でようやく代表に内定した。

 最後の15メートルは、がむしゃらだった。追いすがる日本記録保持者の北島康介(28)に、1秒01の大差をつけて振り払った。ゴールにタッチした瞬間、冨田は喜びより驚きでぼうぜん。「出来過ぎです。康介さんに大差で勝てたことがうれしい」。昨年インカレに続く2度目の2分8秒台。実力が本物だったことを証明した。

 「グビ、グビ、グビ」。最後は息継ぎの度に水を飲んだ。今年に入って、なぜか水を飲むことが多く「ストレスになっていた」。それを避けると、自然と体が立ち、水の抵抗を受けタイムが遅くなる。「康介さんに勝ちたい」。その一心で、この日は、水を飲むのも覚悟の上で、体を低く保ち最後を泳ぎ切った。

 3位で終わった予選後、少しでもスピードを速めたいと腕と足の毛をそった。また、前半から一気に飛び出したいと、最初の50メートルで水をかく数を通常の13回から14回に増やした。実は、今年の1月に左手の指をけが。左肘も痛め、まったく泳ぎ込みができなかったが、気力と冷静な作戦で、打倒北島に結び付けた。

 09年世界選手権で初の代表入り。しかし、代表合宿に水鉄砲を持ってきて、やんちゃ坊主ぶりを発揮した。平井代表ヘッドコーチも「あいつは何なんだ」。しかし、昨年の同合宿では、率先して朝の体操の号令係を買って出て全員を引っ張った。平井同コーチも「人として成長した」と目を細める。

 大好きなのは「ミッキーマウス」の縫いぐるみという異色キャラだ。遠征には、必ず1メートルぐらいの縫いぐるみを持参する。そこから水泳選手の中でついた愛称が「ミッキー」。昨年12月の世界短水路200メートルを制した時は「奇跡です」。この日は、ロンドン五輪の金メダルも見えてきたことに、「また奇跡が続くかな」と「ミッキー」が不敵に笑った。【吉松忠弘】