「平成の三四郎」古賀稔彦氏(44)が沈痛な面持ちを浮かべた。準強姦(ごうかん)容疑で内柴正人容疑者(33)が逮捕されてから一夜明けた7日、女子柔道指導の難しさを口にした。92年バルセロナ五輪71キロ級金メダルの古賀氏は、07年から岡山の環太平洋大学女子柔道部を総監督として指導。厳しいルールを設けながら、信頼関係を築き、わずか4年でチームを日本一に導いた。女子大学生を指導する金メダリストという同じ境遇にあった内柴容疑者には「裏切ってはいけなかった」と叱責(しっせき)した。

 古賀氏は、東京・文京区の講道館で、9日開幕の国際大会に向けての強化合宿の練習に取り組んでいた。内柴容疑者について聞かれると、「自分は何か言える立場ではないし、話せることもありませんから」と言葉を濁した。それでも同じ指導者として黙ってはいられなかった。「どういう思いで指導していたのか。(事件が起きたことは)考えられません」と、怒りと悔しさをにじませた。

 00年に日本代表コーチとなり、アテネ、北京五輪を連覇した谷本歩実らを育てた女子指導の第一人者。その後は環太平洋大女子柔道部の立ち上げから携わっている。古賀氏を慕って入部する学生も多い。内柴容疑者もそれは同じ。「だからこそ裏切ってはいけない。親御さんが安心できる環境作りが大切」と訴えた。

 総監督として、元体重別王者の矢野智彦氏を監督に招いた。部に厳格なルールも設けた。未成年者の禁酒はもちろん、男女交際も禁止。3人部屋で3人が帰寮したら、必ず隣に住む矢野監督に報告をする。女子ならではの心配事は、監督夫人が相談にのる。「そういう態勢を作ってから、柔道の指導です」。

 古賀氏は自宅のある神奈川から毎週、岡山に通い、全部員とコミュニケーションをとることを重視する。「直接体を合わせますから信頼関係が重要。我々は絶対に学生を裏切らない。信頼関係があれば、間違った方向にはいかない」。

 日本代表なら、全員が高い意識を持っているが、大学となれば別。「入学後に道をそれる子もいる。それを正すのも仕事」。さらに「指導者である前に先生という立場を忘れてはいけない。柔道の強化以上に人を育てることが大切。その立場を間違えなければ、事件は起きなかった」。

 男子に比べて歴史の浅い女子柔道。指導方法が難しく、敬遠する男子指導者も多い。古賀氏もかつて「女子の気持ちを分かるために」と女性用香水をつけて指導した。「いろいろある。今でも胃薬が手放せない。でも、やりがいはある」。来年はロンドン五輪。今回の不祥事を乗り越え、女子柔道に明るいニュースが流れることを望んでいた。【荻島弘一】

 ◆古賀稔彦(こが・としひこ)1967年(昭42)11月21日、佐賀県生まれ。小学1年から柔道を始め、東京・世田谷学園高から日体大に進学。五輪は88年ソウル大会に71キロ級で初出場するも3回戦で敗退。92年のバルセロナ五輪で悲願の金メダルを獲得した。96年アトランタ五輪では78キロ級銀メダル。00年に現役引退。