バスケットボールの女子日本代表が、異例の「3巨頭体制」でロンドン五輪出場を目指す。日本協会は10日、都内で中川文一前監督の退任で空席となっていた女子日本代表のスタッフ就任会見を行った。監督にJX(Wリーグ1位)の内海知秀氏(53)、トヨタ自動車(同2位)の丁海鎰(チョン・ヘイル)氏(53)とデンソー(同3位)の小嶋裕二三(ひろふみ)氏(44)がコーチに就任し、現在のWリーグ上位3チームの監督でスタッフを構成。3人は戦術も指導法も異なるリスクも覚悟で、6月の世界最終予選(トルコ)での五輪出場権獲得に勝負をかける。

 日本女子バスケットボール界が大きな賭けに出た。会見に出席したのは名将3人。6月の最終予選まで時間はない。リーグの上位クラブの監督3人を、そのまま代表スタッフに起用する窮策で五輪出場権に挑む。

 09年から監督を務めた中川監督は昨年12月に退任。残り半年を切り、日本協会は他競技でも例のない決断を下した。昨季のJリーグで言えば、柏、名古屋、G大阪の監督が日本代表スタッフを兼任する異例の構成は、メリットとデメリットをはらんでいる。

 <メリット>

 (1)役割分担

 丁コーチは「内海さんが攻撃なら、僕は防御の指導で持ち味を出したい」、小嶋コーチは「分析で良い情報を選手に与えたい」と話した。三者三様の役割分担がはまれば日本の総力が結集される。

 (2)選手情報

 アジア選手権代表の12人中7人が3人の監督が指導するクラブ所属選手。自軍の選手の戦力は熟知している。さらにリーグで競い合う仲だけに、お互いの選手も研究済み。日本代表の大神は「丁さんもリーグで敵だからこそ自分のことは分析している。安心感が大きい」と話す。

 (3)選手招集

 従来は企業チームゆえに自チームの成績を優先し、代表選手の招集に影響することがあった。要となる上位3チームの監督がスタッフ入りすれば、その問題も解消できる。

 <デメリット>

 (1)対立

 丁コーチは「内海さんは優しい。練習時間も短い」と主張した。自分の指導法に自信を持つからこそ対立の可能性をはらむ。戦術面でも考え方の違いがある。限られた時間で妥協点を見つけられるか。選手が混乱する可能性も。

 (2)若手起用

 高橋女子強化部長は「将来性は考えない。12人は絶対使える選手」と明言。各監督が選手を“持ち寄る”と次世代の有力選手が入り込む余地はない。

 今後は、リーグ終了後の4月に本格活動に入る。米国遠征、最終予選開催地のトルコでの国際大会に出場など、日程面でも異例の強化態勢を敷く。「船頭多くして船山に登る」。そうなるリスクはある。残りは5カ月。思い切った決断が吉と出ることだけを信じて、女子バスケットボール界の戦いが続く。【阿部健吾】

 ◆女子の五輪への道

 日本は昨年8月に日本で開催され、五輪の地区予選を兼ねたアジア選手権で3位に終わり、優勝国に与えられる出場権を獲得できなかった。そのためトルコで行われる世界最終予選(6月25日~7月1日)で、最後の出場権をかける。残る枠は5カ国で12カ国で争う。