お笑い芸人のしずちゃんこと山崎静代(33)の挑戦で、女子ボクシングが注目されている。ロンドン五輪から正式採用されるこの新種目は、日本にとってメダル有望種目でもある。その有力候補として期待されているのが、11日に閉幕した全日本選手権でライト級(リミット60キロ)4連覇を達成した釘宮智子(20=平成国際大)。プロの世界王者を育てた2人の名伯楽の指導で、世界トップレベルの技術を身に付けた。五輪予選を兼ねる世界選手権(5月、中国)に向け、世界王者も取り組んだユニーク練習で成長する女学生ボクサーに迫る。

 軽快なフットワーク、サウスポースタイルからの連打、右へのスイッチ、必殺の右フック…。全日本選手権を釘宮は「別格」の強さで制した。準決勝、決勝と2回RSC(TKO相当)勝ち。あの「しずちゃんフィーバー」に沸いた大観衆を、うならせ続けた。

 強さの根源を本人が明かす。「最高の指導者に恵まれています」。プロの世界王者を育てた2人の名トレーナーの指導で成長した。出会いは小6。「いとこの試合を見に行ったら声を掛けられて」。声の主は84年ロサンゼルス五輪代表で奈良朱雀高の高見公明監督。同校で元WBA世界スーパーフライ級王者の名城信男を指導、無尽蔵のスタミナを誇る王者に育てた。

 小6から高校まで同校の練習に通った。「男子と全く一緒の練習をさせました」と高見監督。名物は500メートルダッシュ。休憩は1分で繰り返す。名城も走ったトラックを唯一の女子部員は駆け続けた。高1で全日本選手権最年少優勝。「天才少女」と呼ばれた。

 10年に進学した大学では木庭浩介監督に学ぶ。花咲徳栄高では、現WBA世界スーパーフェザー級王者の内山高志を育てていた。

 練習メニューは独自性にあふれる。上から落としたピンポン球にパンチ。ミット代わりの布団たたきを打ち抜く。真っすぐ打たないと芯に当たらないため精度が高まる。「舞の海みたいでしょ。“練習法のデパート”かな」と木庭監督。「苦手なフットワークも成長しました」と釘宮は言う。

 2人の名コーチの指導で五輪への第1関門を圧倒的強さで突破した。「目標はロンドン。メダル候補と言われるのはプレッシャーになって逆にいいです」とハートも強い。試合会場では、出身の奈良県桜井市での誕生説から「卑弥呼の星」の横断幕が舞う。今度は日本の星になって世界へ挑み、2人の恩師へ最高の報告を届ける。【阿部健吾】

 ◆釘宮智子(くぎみや・ともこ)1991年(平3)9月18日、奈良・桜井市生まれ。小2で柔道を始め、小6でボクシング開始。奈良朱雀高では全日本選手権3連覇(1、2年はバンタム級、3年はフェザー級)。10年に平成国際大に進学。同年アジア大会は初戦敗退。昨年はプレジデント杯準優勝。台北市杯では日本人女子シニアで初の優勝。家族は母、姉、妹2人。166センチ。