<テニス:全豪オープン>◇第4日◇17日◇オーストラリア、メルボルン・ナショナルテニスセンター◇女子シングルス2回戦

 驚異の42歳が、また快挙を達成だ。世界100位のクルム伊達公子(エステティックTBC)が、同90位のシャハー・ピアー(30)に6-2、7-5の1時間32分でストレート勝ち。気温40度の炎天下の中で、大会としては95年以来18年ぶりの3回戦進出を決めた。現段階での4大大会女子最年長成績は、79年全米で3回戦進出のリチャーズの45歳だが、クルム伊達が次戦に勝ち4回戦に進出すれば同成績を更新する。その次戦は同56位のヨバノフスキ(21)と対戦する。

 気温40度、コート上は50度以上の灼熱(しゃくねつ)地獄の中で、ミラクルは起きた。ピアーのフォアが力なくネットに転がった。最初のマッチポイントで勝利をもぎ取ると、クルム伊達は、この日、16度目の「カモーン!」の絶叫だ。「こういう日が、また来るとは思わなかった」。42歳は、ありあまる体力とともに、思わず両手を突き上げた。

 18年の長い月日を経て、奇跡の42歳が、再び世界の舞台に戻ってきた。前回3回戦に進出したのは、母校の園田学園高も被災した阪神・淡路大震災が起きた年。08年に現役復帰後では、もちろん初めての4大大会32強入りだ。常々、「わたしがこうやってプレーしていることが奇跡」と話す42歳が、ミラクルな快進撃だ。

 息をするのも苦しい。空気が熱せられ、直射日光が肌を痛いほどに刺した。その中で、1回戦で大会最年長勝利を記録したクルム伊達が一気に飛ばした。第1セットの2オールから、7ゲームを連取。得意の「カモン!」を連発し、元世界11位の強豪ピアーにテニスをさせない絶好調のプレーを見せた。

 午後2時開始の試合は、進むにつれて気温は上昇の一途をたどった。さすがに驚異のアラフォーも「急に体が重くなった」と、第2セット途中で動きが鈍った。3-0リードから3オールに並ばれ、一進一退の攻防が続いた。しかし、心身のおもりを解き放ったのは、一発の会心のショットだった。

 4オールで相手のサーブ。30-15とリードされ、ピアーがネットに攻めてきた。その横を、閃光(せんこう)のようなクルム伊達のフォアのクロスのパスが抜けた。「あのショットがきっかけだった。自分を再び奮い立たせることができた」。不死鳥のようによみがえり、5オールから2ゲームを連取して決着をつけた。

 前回の現役だった90年代より、現在のテニスは「よりパワフルになっている」とクルム伊達は言う。現役復帰に当たって、20代の選手に体力負けをしないように、心肺機能の向上に努めた。25メートルなど短距離ダッシュを重ね、心拍数を毎分200近くまで上げ、どこまで下がるかを繰り返した。

 通常の女性で心拍数は平常時で70前後。運動をしても120ぐらいまで上がるのが普通だ。しかし、クルム伊達は、そのトレーニングで「心拍数がやや高めの140~150ぐらいが、最も調子がいい」という驚異の心肺能力を作り上げた。この日も「暑さを楽しんだ」という余裕まであった。

 地元メディアからは「あとどのぐらい全豪に戻ってくる?」と質問が飛んだ。「5回以上かな」。いたずらっ子のような笑顔で「簡単じゃないわ。新しい体がほしい」。5年後には47歳。04年ウィンブルドンでナブラチロワがつくった4大大会女子最年長記録と並ぶ年齢となる。【吉松忠弘】