【ブエノスアイレス3日=阿部健吾】招致レースの“助っ人争い”が過熱してきた。20年夏季五輪の開催地に立候補しているマドリード招致委員会は、アルゼンチン代表でスペインのバルセロナに所属するFWリオネル・メッシ(26)が同地開催を支持する声明を発表した。折しも元ブラジル代表のジーコ氏が日本支持を訴えた翌日。7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会での開催都市決定を控え、各国も必死の構えをみせてきた。

 4日後に開催都市決定を控えるアルゼンチンの首都に衝撃が走った。この日午後マドリード招致委員会が写真付きで発表したのは、同国が誇るスーパースターで、スポーツ界でも1、2を争う世界的知名度を持つ男の後ろ盾だった。メッシ、26歳ですでに生ける伝説と言えるサッカー選手が招致レースに参戦した。

 メッシ

 マドリードが開催都市に立候補をしていることは、町にも、そしてスペインにおけるスポーツへの情熱を示す意味でも、とても大きな機会だと思う。もし開催都市に決まれば、町だけでなく、この国でプレーしているスポーツ選手にとっても朗報だ。自分の住んでいる国が五輪を開催することはとても重要だ。

 写真では、招致ロゴ入りのTシャツを身に着け、ロゴ入りフラッグを掲げる姿が。タイミング良く、10日にW杯南米予選のパラグアイ戦を控え、ブエノスアイレス滞在中だった。「スポーツ界の顔」の後押しを手にしたスペインオリンピック委員会のブランコ会長は「彼の個人的な応援を非常に光栄に思う」とコメントした。

 マドリードはレアル・マドリードが本拠地を置き、カタルーニャ地方のバルセロナとは地域的にも対立関係にある。サッカー界で考えれば、「おきて破り」の一手。同国内のメディアのホームページに寄せられたコメントでは、カタルーニャ人と思われる「メッシに失望した」「マドリーを支援する意味はない。五輪は開催してほしくない」との声。その他の地方、スペイン人からは「メッシが支援してくれると思ってなかった」と歓迎ムードだった。国内に反発もあるが、対外的にはスペインの国単位での招致を強調する起用になった。

 同時に、日本にはタイミングが悪い。2日に、ブラジルの国民的英雄で元日本代表監督のジーコ氏が日本支持を表明したばかりだった。「日本には開催国として完全な施設があり、02年のW杯共催を成功させた。五輪を開催する全ての条件を備えている国だ」と絶賛した。同じサッカー界の、しかも現役最高峰選手を“かぶせられた”形になった。

 また、バルセロナの公式スポンサーはトルコ航空で、もう1つのライバルであるイスタンブールにも打撃と見る向きもある。サッカー選手1人の影響力が、投票権を持つIOC委員に響くかは未知数だが、話題になったことは確か。ロンドン五輪招致成功に、元イングランド代表ベッカム氏が尽力したこともあった。

 三つどもえの決戦は、各国が追い込みに必死の様相を呈して、審判の時を待つ。

 ◆夏季五輪招致とサッカー選手

 12年五輪の招致レースで、ロンドンはIOC総会にイングランド代表主将のMFデービッド・ベッカムを投入。IOC委員へサインをばらまく作戦が功を奏し、本命とみられたパリを逆転した。16年五輪は東京と争っていたブラジルのリオデジャネイロが「王様」ペレ氏を派遣して「史上最高の派遣団」を結成。1次選考の最下位通過から逆転劇を呼び込んだ。また、08年五輪招致でパリは、フランス代表MFジダンが演説し、IOC委員がサインに群がる場面もあったが、本命の北京に決まった。