<大相撲秋場所>◇5日目◇17日◇東京・両国国技館

 横綱白鵬(24=宮城野)が力相撲に勝った。得意の右四つにうまく巻き替え、小結把瑠都(24)を寄り切った。規格外のパワーで3大関を撃破していた「エストニアの怪人」を退け、初日から5連勝。場所前に「富士山小御嶽神社」で力自慢が挑戦する「大おのの持ち上げ」に成功した体の強さを、本場所総見に訪れた横綱審議委員会(横審)の委員の前で見せつけた。横綱朝青龍(28)や琴欧洲(26)琴光喜(33)の佐渡ケ嶽部屋両大関、平幕の鶴竜(24)将司(25)も全勝を守った。

 力には力をぶつけた。白鵬は、組むと力相撲になる把瑠都と、組み合った。規格外のパワーを持つ相手と右四つがっぷり。最後は左上手にこん身の力を込め、寄って出た。「重いし、上背もあるからね。時間がかかった」。197センチ、184キロの「エストニアの怪人」を38秒かけて料理。鼻の穴を大きく開いて、息を吐いた。

 力には自信をつけていた。8月25日、家族とともに初めて富士山へ行った。宿泊したのは「富士山小御嶽神社」。そこで力自慢が挑むという伝説を聞いた。神社の中庭には「てんぐのおの」と呼ばれる鉄製のおのがある。約1メートル四方で、重さ375キロ。十両山本山より100キロ以上重い「おの」を裏返すと、力持ちと認められるという。

 これまでも多くの力士が挑み、大鵬や北の富士、千代の富士、北天佑などが返したという。挑戦した白鵬は周囲を驚かせた。小佐野正史宮司が振り返る。「みなさん下から持ち上げるのに、横綱は穴に指を入れて返したんです。ビックリしましたね」。柄を埋め込む穴に指を入れ、豪快に返した。白鵬は「ひっくり返すと一人前の男だと聞いた。ひとつの伝説だね」とうれしそうに話す。

 柔軟な体が爆発力を生む。白鵬は「力だけなら琴欧洲とか把瑠都にはかなわないはず。体幹が強いのかな」という。隠された力を、執行(しぎょう)トレーナーは「筋肉が柔らかいからでしょう。一瞬にして力を集めることは、硬い筋肉では難しい」と説明した。

 場所前のけいこ総見で批判された横審委員の前で、順調に5連勝。「特に意識しなかった」と言いながら、綱の強さを見せつけた。力だけでなく、支度部屋で繰り返した「相手の左上手を切る」術も駆使。力と技を融合させ続ける白鵬が、2連覇に向けて危なげなく序盤戦を乗り切った。【近間康隆】