壮絶な選挙バトルが始まった。貴乃花親方(37)の二所ノ関一門離脱表明から一夜明けた9日、高砂一門と時津風一門が、東京・両国国技館内で一門会を開いた。すでにそれぞれの一門から1人ずつの立候補者が決まっているが、両一門が協力して3人目を擁立する動きが浮上。時津風一門には貴乃花親方の支持者が数人存在するが、一門の結束に縛られる可能性が出てきた。一方、貴乃花親方支持の親方衆が、早くも票集めに奔走。注目の役員改選の日程はこの日、2月1日と発表された。

 貴乃花親方が、さっそくほかの一門を動かした。前日8日に二所ノ関一門会が開かれたばかりの国技館。この日は高砂と時津風一門の親方衆が集まった。開催時間をずらして開かれた会合の目的は、理事選に向けた両一門の提携。高砂一門の中村親方(元関脇富士桜)は「票があれば、もう1人出せるという話をした」と説明した。二所ノ関一門の混乱に乗じた形で、3人目の擁立が濃厚になった。

 すでに高砂一門は現職の九重親方(元横綱千代の富士)、時津風一門は新顔の陸奥親方(元大関霧島)の立候補が決まっている。両一門の合計は29票。ほかの一門への貸株を含めれば、30票を超える可能性もある。当選ラインを10票とすれば「第3の男」の当選も可能。この日、時津風一門の式秀親方(元小結大潮)が出馬意思を伝えたが、結論は初場所5日目の14日まで保留された。以前から理事選で手を組んできただけに、高砂一門も時津風一門への協力を確認した。

 両一門のタッグで、貴乃花親方がピンチになった。時津風一門には2~3人の貴乃花支持者がいると言われている。これまで18人の評議員で「1」を選出するはずだった時津風一門には、票の余裕があった。だが高砂一門と「3」を選ぶとなると、票数はギリギリになる。一門推薦の親方を落選させないよう、組織に締め付けが厳しくなるのは確実。一気に2~3票が減れば、最低9票を固めたと言われていた貴乃花親方にとって大打撃だ。

 貴乃花サイドも指をくわえて見ている訳ではない。二所ノ関一門外の複数の親方は「ある親方から『貴乃花を支持しよう』という誘いの連絡があった。正直、迷っている」と明かした。また、二所ノ関一門の間垣親方(元横綱2代目若乃花)が貴乃花支持に回ったことも判明。立候補者が多くなれば当選ラインは下がるだけに、確実な1票が、ピンチをチャンスに変える。

 当の貴乃花親方は「一門離脱」表明から一夜明け、けいこ場に姿を現さなかった。1年初めの初場所は10日が初日。武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は「オレが発言することじゃない」と不機嫌そうに話した。現役力士そっちのけで繰り広げられる熱き闘い。一門の枠を超えた激しい攻防は、すでに水面下で本格的に動きだしている。【近間康隆】