ロッテ佐々木朗希投手(20)が4月24日のオリックス戦で白井一行球審に詰め寄られた騒動が、今も球界内外で議論の的となっている。選手と審判の関係性はどうあるべきなのか。日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(40)が、球界の話題を語る月1コラム「鳥谷スペシャル」で「審判との向き合い方」について考察した。【取材・構成=佐井陽介】

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ロッテ佐々木朗希投手と白井審判の一件について今も議論が続いています。自分は審判を経験したことがありません。2人から話を聞いたわけでもありません。今回はどちらが良い悪いという話ではなく、選手目線で「審判との向き合い方」を考えたいと思います。

大前提として審判の方々も人間です。感情があります。1つ1つ重たいジャッジを下してもらう上で、自分の味方になってもらうに越したことはありません。ストライク、ボールの判定にしても、態度を表すことで次はボールがストライクになるのであれば、怒る策も1つかもしれません。ただ、誰だってクレームをつけられた後にまた同じボールが来たら、どうしても意地になってしまうもの。結果的に不利な判定が続けば、損をするのは自分です。

感情的になれば、その瞬間はすっきりするでしょう。ただ、球審とのもめ事は必ず塁審も見ています。塁審とのもめ事は他の審判が見ています。プロ野球の審判は基本、地域によってメンバーが固まっています。3連戦であれば、同じメンバーが球審や塁審を持ち回りします。翌日の試合や次の遠征時にマイナスなイメージを持たれて、選手にとって得はありません。

1つ1つのボール、プレーに思い入れを持つ選手の気持ちは理解しています。ただ、審判の判定は選手がどうこうできる事柄ではありません。ジャッジに不満を抱いたとしても「この審判はこういう傾向があるんだ」と次につなげる方が得策ではないでしょうか。自分は現役時代、審判の判定にその場で腹を立てるケースはありませんでした。

審判の方々には必ず特徴、クセがあります。インコースに構える球審がいれば、捕手の真後ろに立つ球審もいます。ストライクゾーンにしても高めを取る、低めを取る、アウトコースが広い、狭いと、人それぞれです。そんな審判1人1人の傾向を冷静に分析して把握していく作業も、選手にとっては重要です。

先に傾向を頭に入れておけば「前の審判はここをストライクと言ってくれたのに、今回はなぜ…」とイライラせずに済みます。この審判はこのコースを取ってくれるから使おう。このコースの直球はボールとされがちだから変化球にしてみよう。ストライクゾーンが外に広いからファウルで逃げよう。日々対策を考えていけば、投手、打者ともに成功する確率をより上げることができるはずです。

もちろん、中には選手、審判ともに感情を出した方が面白い、という意見もあるでしょう。ただ、判定の度に一喜一憂していては選手も疲労がたまります。佐々木朗希投手と白井球審にしても、再び交差する時は互いに意識するでしょうし、必要以上に注目もされます。そういった無駄な労力を使わないようにすることも、長いシーズンを戦う上では大事になってきます。

プロ野球で長年プレーし続ける選手であれば、それこそ「ロボット審判」が導入されない限り、多くの審判と仕事をすることになります。特に捕手はそうでしたが、一流選手の多くは審判ともうまく付き合っていたように記憶しています。野手であればイニング間や出塁時に塁審と雑談してみたり、みんな陰ながら努力していたものです。

野球は選手と審判の両方がいなければ成り立たないスポーツ。円滑に試合を進行していく上で、互いのリスペクトは欠かせません。相手に敬意を払えているか。威圧的になっていないか。両者ともそういった部分にも気を配っていけば、選手と審判のあるべき関係性を構築していけるはずです。(日刊スポーツ評論家)


◆白井球審詰め寄るVTR 4月24日オリックス戦の2回2死一塁、安達を2球で追い込んだ佐々木朗の3球目、際どい外角速球はボールと判定された。一走・杉本は二盗に成功した。佐々木朗が苦笑いを浮かべた直後、白井球審は厳しい表情で言葉を発しながらマウンド付近まで歩いて近づき、捕手の松川が制止しようと間に入った。試合後、白井球審は「別に話すようなことはないんで」とし、井口監督は「球審はもっと冷静にやらないといけないと思いますし、当然判定に対しては何もわれわれは言ってはいけない」と語った。

公認野球規則の8・02審判員の裁定の【原注】には「ボール、ストライクの判定について異議を唱えるためにプレーヤーが守備位置または塁を離れたり(中略)宣告に異議を唱えるために本塁に向かってスタートすれば、警告が発せられる。警告にもかかわらず本塁に近づけば、試合から除かれる」と記されている。