佐々木朗のことを意識するのは打者だけではない。投げ合う相手の先発投手も強く意識せざるを得ない。普通は相手のことを意識する状況は限られる。エース同士の対戦やライバル関係にある時だ。味方打線の力量や状態から「何点以内の勝負」と逆算して投げる。

だが佐々木朗には常に1点勝負に近い感覚に陥る。現にソフトバンクは1回1死二、三塁で前進守備を敷いた。通常なら1失点はOKの状況。ましてやエース千賀なら最少失点で切り抜ける可能性は十分にある。それでも逆算すれば前進守備は正解だし、実際に無失点でピンチを脱出した。

1点もやれない状況が続くのは、バッテリーの心身を早く消耗させる。レアードの2回の初打席は変化球3球にまったく合わずに三振させた。だが4回1死二塁の第2打席は直球を2球続けて中前打を許した。失点につながらなかったが、1打席目の打撃を見れば、変化球を貫いてよかった。

5回1死二塁では3番佐藤都に7球、変化球を続けて四球。一塁が空いていて慎重に勝負した配球なのだろうが、千賀と佐藤都、4番山口の力関係を考えれば2人と勝負にいっても抑える確率は高い。ここでも佐々木朗の影がチラついている。佐藤都を歩かし1死一、二塁。心理的に余裕が残った山口、菅野に初球を狙われて連続適時打を許した。千賀も気持ちは切れていないだろうが、負けを覚悟するようなムードが漂った。味方の好中継で失点は防いだが、続く安田にも二塁打を食らった。

完全試合を達成した4月10日のオリックス戦でも、投げ合った宮城が途中まで好投していた。だが6回に2失点目を許した後、同イニングで5失点と止まらなくなった状況と似ている。

休養明けの佐々木朗は、序盤は直球がシュート回転して決して状態は良くなかった。だが5回に普段はあまり使わないカーブを牧原大、柳田の入り球に使った。いい意味で味を占めたような配球で3者連続三振。13連続奪三振の時もオリックス吉田正に2球連続カーブで虚を突いたが、幅が広がる使い方だ。緩急の“緩”が入ると、内容が良くなくても6回1失点11奪三振という投球ができる。(日刊スポーツ評論家)

ロッテ対ソフトバンク 5回裏ロッテ1死一、二塁、山口に左翼線へ適時二塁打を浴びる千賀(撮影・横山健太)
ロッテ対ソフトバンク 5回裏ロッテ1死一、二塁、山口に左翼線へ適時二塁打を浴びる千賀(撮影・横山健太)