勝負事での「勢い」が、どれほど重要なのかがよく分かる試合だった。やることがすべてうまく流れる広島に対し、阪神はすべて逆目に出る。ひと言で「勢いの差」と言ってしまえばそれまでだが「なぜ、そうなるのか?」という視点で振り返ってみた。

初回の攻防が象徴していた。阪神は先頭打者の中野が、ショートへの平凡なゴロ。しかし小園がボールを握り損ねてヒットになった。ここで2番の木浪が送りバント。近本の離脱もあり、相手投手は防御率1点台の左腕・床田。攻撃的ではないが、セオリー通りの戦術だろう。

続く渡辺諒の当たりは三遊間へのゴロ。この当たりで二塁走者の中野は三塁を狙わなかった。無理をしないのはセオリーだが、三塁手の田中は横っ跳びで飛び付いて捕れなかった打球だった。ショートが追いついたが、思い切ってスタートを切っていればセーフだったし、次の大山の中飛が犠牲フライになっていた。結局、無得点に終わった。

一方、広島は先頭菊池が中前打。2番の野間は強攻策でライト前にはじき返し無死一、二塁のチャンスを作った。ここで3番の秋山には強攻から一転して送りバント。1死二、三塁となり、阪神の内野陣は前進守備をとったが、4番西川の打球は一、二塁間を破り、2点タイムリーとなった。

ここまでの攻防を見ると、初回から阪神は1点を取りにいって1点も取れず、1点もやらないように守って2点を失っている。1つ1つの作戦は間違っていない。しかしすべての作戦が消極的だった。少ない得点を少ない失点で守ろうとして逆になった。この時点で「勝てない」という雰囲気になってしまった。

離脱した近本の穴をどうカバーするかについても疑問だった。外野はノイジー、ミエセス、島田を起用したが、ここまで結果を出している前川を起用すると思っていた。左腕の床田を考えたのだろうが、右投手では3番で起用するほどの若手。近本の離脱の穴埋めを考えるなら、せめて「左投手が打てない」と分かるまで起用していい。将来性のある若手の活躍は、何よりもチームの活力になる。

ローテーションも交流戦明けで組み替えが可能だったのに、3連戦の初戦の投手に一番調子のいい投手を持ってきていない。初戦に負けても2戦目と3戦目に勝てばいいという考え方もある。しかし優勝するチームはそういった消極的なローテーションを組まないだろう。

勝負事はあくまで積極的に攻撃的な気持ちを忘れてはいけない。時に手堅くいくのも大事だが、今の阪神は戦術や起用法のすべてが消極的に映る。チーム全体が守りに入れば、個々の選手の動きも消極的になってしまう。

広島は攻守の押し引きがうまくいった。「追う者の強み」が発揮されていた。一方の阪神は「追われる者の弱み」が出てしまっている。今が踏ん張りどころ。優勝するチームは、苦しい戦いを乗り越えたチームが手にするものだと思っている。(日刊スポーツ評論家)

広島対阪神 広島対阪神 1回裏広島に5失点し、ベンチに戻る阪神西勇(撮影・藤尾明華)
広島対阪神 広島対阪神 1回裏広島に5失点し、ベンチに戻る阪神西勇(撮影・藤尾明華)
広島対阪神 登録抹消され、帰阪する阪神近本(撮影・藤尾明華)
広島対阪神 登録抹消され、帰阪する阪神近本(撮影・藤尾明華)