10月14日、巨人の07年高校生ドラフト1位の藤村が、28歳で現役引退を表明した。

 ジャイアンツ球場の記者室で、報道陣に自分の言葉で伝えた。同7日に自由契約となり、1週間、自分と向き合って出した結論だった。「まだやれるでしょという話もいただいたけど、他のユニホームで巨人を敵に回して戦う姿が、どうしてもイメージつかなかった。未練はないです」。

 スッキリとした表情で思いを話し終えると、「見てください」とスマートフォンを取り出して1枚の画像を開いた。小学生時代の作文が写っていた。「巨人にドラフト1位で入って盗塁王と本塁打王を取りたい」と記されていた。11年に盗塁王のタイトルを獲得。「本塁打は打てなかったけど夢をかなえられました」。

 藤村が盗塁王の夢をかなえた年、記者は野球記者1年目を迎えた。野球をはじめた小学生のころ、阪神掛布やバースのようなホームラン打者に夢中になった。だが身長は中学で止まり、高校卒業まで1本も柵越えを打てなかった。ただ、足は少しだけ速かった。俊足巧打のプロ野球選手になるのを夢見たこともあった。

 自分の夢はかなわなかったが、あこがれたプロ野球の世界を取材することになるとは思ってもいなかった。そんな巨人担当1年目、身長174センチの藤村が目の前で快足を飛ばしていた。少年時代にあこがれた、自分の未来像を体現してくれているよう思えたりもした。大男に混じり、スピードで勝負を挑むプレースタイルが好きだった。

 今後、藤村は球団に残る予定。「巨人が勝つためにファンの方と共に戦っていくつもりで頑張っていくので、これからもよろしくお願いします」。どんな仕事であれ、全力で走り回り、次の夢もかなえてほしい。

【巨人担当・浜本卓也】