長野久義外野手(34)の人的補償での広島への移籍が7日、発表された。

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16年1月下旬、グアム自主トレ取材からの帰国日だった。出国前の現地空港で、記者は財布を紛失した。カバンの中身をすべて出しても出てこない。空港職員に涙目で窮地を訴え、一緒に捜索したが見つからない。職員は困ったように両手を広げると、さっさと自分の持ち場に戻っていった。

中身は現金にクレジットカード、免許証…事の重大さに、ぼうぜんと空港内をさまようしかなかった。出発まで1時間を切った、そんな時だった。聞き慣れた明るい声が、遠くから自分の名前を連呼していた。同便で帰国予定の長野だった。

「さっきから、放送で何度も名前を呼ばれてますよ。搭乗ゲートまで来て下さいって言ってましたよ」

財布を拾った日本人家族が中身を確認して持ち主が日本人だと分かり、空港に頼んでアナウンスで名前を呼びかけてくれていた。頭がパニックだった記者は、館内放送などまったく耳に入ってこなかった。長野は違った。ソファで仲間と談笑していたにもかかわらず、英語の放送内容までしっかり把握し、わざわざ記者に知らせてくれた。

帰国直後の成田空港ですぐに感謝を伝え、事情を説明した。長野は「知っている名前が聞こえてきたから何かあったな~とは思いましたけど、まさか財布をなくすとは。顔が真っ青でしたよ(笑い)。いや~、とにかく中身も無事で良かったですね。僕は何もしてませんよ。気にしないでください。お疲れさまでした!」と、グアムの日差しでより精悍(せいかん)さを増した表情を優しく緩め、帰路についた。どんな時でも冷静沈着。長野の温かなまなざしと千里眼が、広島でも多くの人の窮地を救っていくのだろう。

長野のおかげで、3年たった今でも、あの時に戻ってきたお気に入りの財布を愛用している。【11~12年、15~17年巨人担当=浜本卓也】