甲子園球場から車で約6分。住宅街の中にその治療院はある。中に入ると、阪神の選手たちのサインが壁にぎっしり。「甲子園スポーツトリートメント治療院」は、昨季まで12年間、阪神にトレーナーとして在籍した手嶋秀和氏(38)が今年1月にオープンした。やってくるのはプロ野球から少年野球の選手、他のスポーツ選手、地元の主婦までさまざま。阪神の試合は今でもテレビ中継で見守っている。厳しい戦いが続く日もあったが「矢野さんには明るい表情でいていほしいですよね」と話す。矢野燿大監督(51)が、誰もが野球を楽しみ喜びを前面に出すことを肯定してくれたからだ。
昨年10月5日のCSファーストステージ、DeNAとの第1戦。阪神は最大6点差をつけられながら、北條の3ランなどで逆転勝利を収めた。翌日の新聞には、ガッツポーズで喜ぶ阪神ベンチの写真が掲載され、手嶋氏も最前列で笑顔を見せていた。手嶋氏のもとにはたくさんの連絡が届くなど反響は大きく、中には否定的な意見もあった。トレーナーはあくまで裏方。そんな考え方だった。昨シーズン終了後のある時、手嶋氏がテレビを見ると、矢野監督が映っている。そしてちょうど、その試合についての話をしていた。「チーム一丸となった雰囲気をつくりたかった。選手だけでなく、みんなが喜びを出していてうれしかった」。矢野監督の言葉が、心からうれしかった。
シーズン終了後に退団の意思を伝えると後日、矢野監督から連絡があった。「今後プロ野球選手になりたい人に、なった人のことを伝えていきたいということ、それは俺の夢でもあるから。タイガースの野球が楽しそうだなって思ってもらえるように、明るくやろうと思うし、今後野球をやりたいって思ってもらえるように、子どもたちに広めていきたい。この仕事を辞めた時に、一緒に出来たらいいな」。楽しく明るい姿を見せることで、野球に興味を持ってもらいたい-。熱のこもった言葉だった。
現在、手嶋氏は少年野球の選手たちの体作りにも力を入れる。トレーニングや体のケアに興味があっても、その方法が分からないというチームや指導者は多いという。少年野球の練習に訪れ、野球の動作に必要なトレーニングを理論的に指導し、親子で出来るストレッチも伝えている。「小学校の時からクールダウンをしっかり行えていたら、ケガを防げていた子、野球をやめなくて良かった子がいたかもしれない。どうにかして野球を長くやってもらいたいと思います」。夢を持つ選手たちの未来をつぶさず、そして可能性を広げたい。そんな思いが活動の源。現在は主に、西宮市の少年野球チーム「鳴尾東ビクターズ」の練習を訪れ指導。同チームは今年の西宮市の大会でいまだ無敗だ。「他のチームと差をつけるには野球の技術とコンディショニング、ということを伝えたい」と手嶋氏は意気込む。
治療院にはテレビがあり、いつものように阪神戦の中継が流れている。少年野球の選手たちが訪れれば「この展開だったら、どうなると思う?」など、野球談議を交わしながら治療を行っている。阪神は現在、首位巨人と6・5ゲーム差の3位。毎日チームが戦う姿を、夢見るたくさんの子どもたちが見守っている。【阪神担当=磯綾乃】
◆甲子園スポーツトリートメント治療院 昨季まで12年間、阪神にトレーナーとして在籍した手嶋秀和氏が今年1月にオープン。スポーツマッサージからはり治療、指圧マッサージなど、スポーツ選手から一般客まで幅広く、それぞれに合った治療を施す。電話番号は0798-39-7315。詳しくは「http://hidegogomayowazusu.wixsite.com/mysite」まで。




