「よっしゃ~!」「おりゃ~!」。観客が戻り始めたスタンドに、絶叫が響く。楽天田中貴也捕手(28)が存在感を示している。10日西武戦で6番DHで今季3度目のスタメン出場を果たすと2号ソロを含む3打数2安打1本塁打と躍動。翌11日も1安打。12日ソフトバンク戦まで3戦続けてスタメン出場をつかんでいる。

売りは“声”だ。鈴木大らとともに「いけるぞ~!」「うりゃ~!」とベンチから爆音をとどろかせる。勢いに乗っている時はもちろん、劣勢時も声は鳴りやまない。石井GM兼監督は「成績が出ていないときの態度を見ている。自分がいい時だけ元気な人もいますけど、自分が大変なときに、チームメートを鼓舞することができるかを見ている」と話す。その中で田中貴に「試合に出ていないときも、試合に出ている選手をしっかり応援している。練習からチームのためにやっているし、試合に出たらいい意味で悲壮感があるというか、1球1打席を大事にしている。そういう選手は好きですね。スタートで行ってもらいたいです」とスタメン起用の意図の1つに挙げるほど、がむしゃらな姿勢を評価する。

重ねた苦労が、実を結ぼうとしている。田中貴は八重山商工、山梨学院大から14年育成ドラフト3位で巨人に入団。「005」を背負い、ジャイアンツ球場で汗を流した。3年目の17年に初の春季キャンプ1軍メンバー入りを果たし、同年7月に支配下登録を勝ち取った。18年8月に代打でプロ初の1軍出場も代打の代打を送られ打席には立てなかった。翌19年に守備で出場も打席には立てず。昨年9月に金銭トレードで楽天へ移籍した。

新天地で持ち前の打棒が光り始めた。10月24日日本ハム戦でスタメン出場し移籍後初出場。第2打席で右前適時打を放つなど2安打と結果を出すと、同月29日西武戦ではプロ1号も放った。巨人時代に阿部2軍監督から授かった助言も生かし、今季も26打数10安打、打率3割8分5厘、2本塁打、3打点と好成績を残している。ベンチ入り捕手は炭谷、太田を含め3人の中、DHで起用されるほど、バットへの期待は高い。

話はそれるが、記者と同じ92年世代。若手から中堅へ立場が変わり、組織の中核を担う役割を求められる。プロ7年目。背番号55の「鷲ゴジラ」が成長途上のチームとともに、成長を続けている。【桑原幹久】