どうしてもシェアしたい話がある。阪神の仲野伸洋トレーナー(45)の「声出し」についてだ。1日中日戦から始まって3、4日の巨人戦でも試合前の声出し役を務めた。チームはその間3連勝。ひそかに必勝の儀式となりつつある。

球団公式インスタグラムにはその模様がアップされている。仲野トレーナーが実に軽やかに、笑いも交え選手の士気を高めるトークを繰り出す。分かりやすい例え話が、心に響く。以下に抜粋する。

▼1日中日戦前

仲野トレーナー 今日はシェアしたい、いい話を持ってきた、アフリカから。アフリカのジャングルでは鹿が毎朝目を覚ます。その鹿は知っている。朝日が昇ると同時に、自分が全力で走りださないといけないということを。なぜなら、ライオンに襲われて命を落としてしまうから。また、ライオンも毎朝目を覚ます。そのライオンは知っている。鹿を全力で追いかけないと、自分が餓死してしまう。何が言いたいかって、自分が鹿でもライオンでも、やることは変わらない。朝日が昇って全力で走りだしてなかったら、それは死を意味する。OK? この甲子園というジャングルで、プレーボールの朝日が昇ったら、全力疾走で行きましょう! ワンツースリー「ジャングル!」。

▼3日巨人戦前

仲野トレーナー 1試合雨で流しているけど、ナイスジャングルでした。植田海なんか、朝日が昇ると同時にトイレ掃除していたからね。今日もシェアしたい話があります。今日はブラジルから。アマゾンの熱帯雨林地方を、カエルの群れが移動していた時の話。2匹のカエルが大きな穴に落ちてしまった。周りにいたカエルたちも心配してのぞきこんでいた。相当深い穴でみんな「はい上がってこれるわけない」と。だけど2匹のカエルは一生懸命跳ねてた。それでも周りは「無理に決まってる。無駄な努力するなよ」と。そうこうしているうちに、1匹のカエルは諦めて静かに死を待った。だけどもう1匹のカエルはこれでもかというくらいジャンプして、ある1回のジャンプでその穴を乗り越えた。その1匹のカエルは、実は耳が聞こえないカエルだった。みんなが「無理だ」とはやし立てるのを、自分が応援されていると勘違いしていた。何が言いたいかって言ったら、俺たちが口にする言葉。それはすごく影響力を持っている。言葉であり態度であり姿勢。もう1度、自分で言葉を発する前に考えてほしい。OK? 今日この甲子園というアマゾンで誰かが穴に落っこちるかもしれないよ。いい? 全員で助け合って励まし合って前へ進んで行きましょう。ワンツースリー「アマゾン!」

▼4日巨人戦前

仲野トレーナー ナイスアマゾン! あれがタイガースベースボールだよね。全員の力で勝った。カエルが2匹とも穴から飛び出してきた。今日はある男がチョウチョウのサナギを見つけた時の話。その男はサナギを家に持って帰って観察することにした。何日か見ていると、サナギに小さな穴が開いてるのを目にした。何日も観察していると、チョウチョウがもがいて外に出ようとしていた。ある日、胸のところまで出たところで、パタッと何の進歩もなくなった。もがいているんだけど、いっこうに出てこない。その男はふと、ハサミを持ちだして、サナギを切ってあげた。するとチョウチョウは簡単に外へ出てきた。でも、チョウチョウを見た男はびっくりした。胴体が腫れ上がって、縮こまった羽をしていた。いっこうにその羽は大きくならない。ついに、飛ぶことなくそのまま生涯を終えた。実は、サナギからもがいて外に出るっていう行為は、体にたまっていた栄養素を、その小さな穴を通して出ることによって、羽の方に運ばれて羽が成長していく、欠かせない過程だった。そこを悪気のない男が助けてしまった。まとめるよ。この中にも、いろんなことにつまずいたり、もがき苦しんでいる人たくさんいるよね。だけども、そのもがき苦しむ行為は、みんながこの世界で羽ばたくために欠かすことのできない行為なんだ。いい? 誰に代わってもらうこともできない。自分でなんとか克服して、外にもう1つ出なきゃいけない行為。OK? おおいにもがいて、今日はこの甲子園の大空のもと、全員でチョウのように舞って、ハシ…蜂のように刺すよ!(かんだよ~と突っ込みが入る)。OK? 今日は全員でムハメド・アリで。ワンツースリー「ムハメド・アリ!」

文字に起こしてもキャッチーでリズミカル。そんな演説も日がたつにつれ、笑いが少なくなった。選手たちはそれだけ引き込まれ、前のめりになって聞いている。ライオンにカエルにチョウに、自身を投影した選手もいるかもしれない。

仲野トレーナーは今季スローガン「挑・超・頂-挑む 超える 頂へ-」の発案者でもある。アイデアマンが生み出す試合前の「心の時間」。「アフリカ」「アマゾン」「サナギ」。次は何が来るのか、ひそかに楽しみにしている。【阪神担当 中野椋】