あの瞬間、阪神栄枝裕貴捕手(24)の「十八番」に注目していたのは、記者だけではないはずだ。

2日のヤクルト戦(甲子園)。1点ビハインドの9回2死一、二塁で背番号39は代打起用された。プロ初出場初打席。ここでヤクルト・マクガフの154キロをはじきかえし右前適時打を決める。目を凝らしたのはこの直後だ。

一塁に到達すると筒井コーチとグータッチ。プロ初安打の喜びをかみしめながら、興奮を胸の内にとどめるようにほほえんだ。沸きに沸く甲子園の雰囲気に流されたのか。それどころじゃなかったのか。栄枝からお決まりのポーズが飛び出すことはなかったように見えた。

お決まりのポーズとは。車のハンドルを大きく回すように腕を動かす、通称「大きめのハンドル」。ルーキーだった昨年2月28日、沖縄でのヤクルトとの練習試合の前、声出し役を担った際に披露した一発芸だ。当時の一部始終が球団公式インスタグラムに残されている。

「みなさんが笑顔になれるように一発かましたいと思います! 『あ~いあい、あ~いあい、大きめのハンドル♪』。みなさん今日は心の中に大きいハンドルを持っていきましょう! さあいこう!」

ポジションは捕手で、グラウンドでは冷静沈着。さらに「二枚目」と称される顔立ちからは意外な角度のシュールなギャグに、宣言通りナインは笑顔になっていた。

実は、立命大の1学年上の主将、大本拓海捕手(現ヤマハ)の持ちネタを拝借したもの。「あの時は藤井さん(バッテリーコーチ)に『最後何かやれ! 爪痕残せ!』って言われてたんです。何かやらなあかんな…」と腹をくくって決めていたという。

昨季も、そして今季に入ってからも安打を打った選手が塁上で「大きめのハンドル」を披露することが時折あった。それだけに、本家を見られるのでは…、と期待していた。

栄枝は「死ぬ気で打った」と初安打を振り返る。「十八番」を忘れてしまうほど必死だったという証拠だろう。8日開幕のクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージDeNA戦(横浜)でも快音を響かせ、今度こそ。そういきたいところだ。

ちなみに。栄枝の直後に打席に立った佐藤輝明内野手(23)は申告敬遠で一塁へ。この時、二塁ベース上の栄枝に向かって、ちゃめっ気たっぷりに「大きめのハンドル」を決めていた。20年ドラフト同期の絆が垣間見えた瞬間だった。【阪神担当 中野椋】

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