草葉の陰であの人気者も、きっと「アレ」を祈っているに違いない。

阪神優勝などに関連し、個性的な催しで地域を盛り上げてきたのが大阪市東住吉区の駒川商店街だ。阪神が前回セ・リーグを制した05年秋には、当時の岡田彰布監督を模した巨大なダルマ「おかだるま」を登場させた。

同年のセ・リーグは終盤、阪神と中日が激しい優勝争いを展開した。Vムードに乗り遅れまいと、商店街の関係者約10人が8月から製作に着手。ダルマだけにはじめは、目の部分が白いままだった。ところが「誰やら分かれへん」との声が相次ぎ、急きょ書き入れた。胸には「KOMAGAWA」のアルファベット、そして背番号は岡田監督と同じ「80」だ。アーケードの中心部に9月4日、その姿を現した。設置されるや否や話題を集め、レジ袋を手に見上げる買い物客が相次いだ。

そして阪神は同29日、見事に「アレ」を達成。岡田監督が甲子園で胴上げされるのと時を同じくして、駒川の「おかだるま」も高らかに宙を舞った。

このとき数カ所の破損があったが、バイタリティーあふれる駒川商店街の面々は意気軒高だ。テープで応急処置を行い、おかだるまは商店街上空に再び出現した。そして阪神が御堂筋パレードを行う同日同時刻に、総延長約760メートルの商店街アーケードで「駒川パレード」を行う計画をぶち上げたのだ。

パレードだけに「おかだるま」をつるしたままにはしておけない。リヤカーに載せ「おかだんじり」として、練り歩くという段取りだった。

ところが…。これに待ったが掛かった。阪神球団は一連の報道を受け、職員を駒川商店街へ派遣。阪神のリーグVに合わせ、セールを行っている店舗が「タイガース」と明記した看板などを確認した。

球団営業部では外部の業者などが優勝セールを行う場合、事前の申請を求めていた。そのうえで「商標使用料」などの名目で一定の金額を受け取り、許可していた。「駒川商店街の場合は『おかだるま』などで、大きな話題となった。申請を行った業者や団体より注目される、というのはやはり問題がある」と判断した。

そこで、ロッテとの日本シリーズ第3戦の行われた10月25日、大阪市内で商店街役員と面談。「法的な手段を取ることまでは考えていない」と前置きした上で「球団は岡田監督のユニホーム姿の肖像権を、全面的に管理している。ぜひ適切な形でお願いしたい」と要請した。

これを受け商店街側は、予定していた「駒川パレード」の中止を決定した。全国的な人気者となった「おかだるま」は、日本シリーズ終了後に“勇退”。商店街事務局の屋上に保管されていた。ブルーシートに包まれていたものの、雨風の影響に耐えられず次第に壊れてゆく。およそ半年後に解体され、短くも数奇なその生涯に幕を下ろした。

あれから18年の時を経て、岡田監督が再び指揮を執る。当時の駒川商店街振興組合理事長、名和安将さん(69)は「岡田さんは、放送の解説を聞いていても感銘を受けることが多い。名将だと思います。阪神にしたたかさを持ち込んで、ぜひ優勝してほしい」と期待を語った。

新型コロナウイルスの影響で、このところ同商店街は人を集めるような催しを行っていないという。もちろん「2代目おかだるま」登場の予定などありはしない。

それでも、地元大阪出身の岡田監督率いる阪神が「アレ」を成し遂げれば、庶民の街駒川は、どれほど盛り上がることだろう。「駒川パレード」は幻に終わったが、御堂筋パレードは期待大だ。「おかだるま」は商店街上空から、いや天国から、あの細い目で岡田阪神の雄姿を見守ってくれるに違いない。

【記録室 高野勲】(スカイA「虎ヲタ」出演中。今年3月のテレビ東京系「なんでもクイズスタジアム プロ野球王決定戦」準優勝)

人知れず短い余生を過ごした「おかだるま」。駒川パレードは幻に終わった(2005年11月撮影)
人知れず短い余生を過ごした「おかだるま」。駒川パレードは幻に終わった(2005年11月撮影)