「蓮」が「蓮」のために走った。開幕2戦目の4月1日DeNA戦(京セラドーム大阪)。5-5で迎えた延長12回2死満塁で、阪神近本が左中間を破るサヨナラタイムリーを放ち2連勝を決めた。ナインがベンチから飛び出し、殊勲打を放った近本にウオーターシャワーを浴びせるべく、逃げ続けるヒーローを追いかけ回した。

だが、阪神加治屋蓮投手(31)の向かう先は違った。サヨナラのホームを踏んだ糸原とハイタッチした直後、真っ先に左中間へと転がった白球に猛ダッシュし、DeNAの選手からボールを受け取った。ベンチ付近に戻ると後輩左腕に記念球を渡すと見せかけ、スタンドに一瞬投げ入れるふりをみせたが、その後優しくボールを手渡した。

「あいつにとっては一生に1個しかないボールなので」

加治屋はサヨナラ勝ちを想定しながら、プロ初登板で延長12回を1回無失点に抑えたドラフト6位ルーキー富田蓮投手(21)の「プロ初勝利のウイニングボール確保」の準備を進めていた。「もちろんヒットはサヨナラですし、パスボール、ワイルドピッチでもサヨナラで勝ちがつく。いつでもどういう形でもいけるように、いろんなシチュエーションを考えてました」。

自身はソフトバンク時代に中継ぎでブレークした18年の5月29日の阪神戦(甲子園)でプロ初勝利を挙げた。「最後の9回を抑えた森からもらいましたね」。同期入団の守護神森唯斗投手(31)からボールを渡されたことを今も鮮明に覚えている。大事に持ち帰ったウイニングボールは現在、宮崎県内の実家にあり、高校2年時に心筋梗塞で急死した母伊津子さん(享年38)の祭壇に飾っている。

「プロとして1勝できたということは、みんなが経験できることじゃない。先発で長いイニング投げようが、リリーフで短いイニングを投げようが、1勝は1勝なので。そこは自信にしてほしい。自分も同じ中継ぎとして負けられない」

ひそかに抱いている夢がある。阪神には加治屋、富田に加え、育成選手として2軍で奮闘を続けているもう1人の「蓮」がいる。「運というか、いろいろ重ならないとできないことではありますけど、佐藤蓮も含めて将来そういう名前でリレーができればおもしろいですね」。同じ名前を持つ3投手の「蓮リレー」実現を思い描く。仲間思いの背番号54が、投手陣のまとまりに一役買っている。【阪神担当=古財稜明】

初勝利の富田は加治屋(左)からウイニングボールを手渡され…るはずが、急転スタンドへ投げこまれそうになる(2023年4月1日撮影)
初勝利の富田は加治屋(左)からウイニングボールを手渡され…るはずが、急転スタンドへ投げこまれそうになる(2023年4月1日撮影)
プロ初勝利を挙げた富田(右)は、岡田監督と笑顔を見せる(2023年4月1日撮影)
プロ初勝利を挙げた富田(右)は、岡田監督と笑顔を見せる(2023年4月1日撮影)