やられた! と思った人もいるかもしれない。ただそこには、阪神熊谷敬宥内野手(27)がいた。28日の中日戦(甲子園)、8回のピンチでの守りのことだ。

1死二塁、打者は3番ビシエド。1ボールから岩貞が投じた外角149キロを引っ張り込むと、打球は三遊間へはずんだ。決して弱い当たりではなかったが、この回から三塁に入った熊谷は、難なくさばいて一塁送球。2死二塁とし、4番細川の空振り三振へとつながった。

何げない三ゴロのように見えた。いや、何げないプレーに見えるようなポジションニングを敷いていた、と言えるのかもしれない。

ビシエドが打席に入ると、ベンチから指示が飛んでいた。「もうちょっと三遊間に寄らせんと」。それは岡田監督からコーチ陣に、コーチ陣から熊谷へと伝えられた。

内外野をそつなくこなすユーティリティー性が売りの熊谷だが、主な主戦場は二塁だ。「自分は定位置がそのあたりだと思っていた」。三塁専任ではない背番号4は、自然と三塁線寄りのシフトを基本にしていた。

走力のある男だ。「僕はどこを守っても、ああいうのを追いつかないといけないと思う」としながらも「ベンチから、もうちょっと三遊間に寄っておけという指示があったので。そうしたら打球がきた。1つ幅が増えたかな」とうなずいた。

歩幅にして「2歩くらい」だという。もとの守備位置でも、捕球できていたかもしれない。それでも、1メートルから2メートルほどのポジショニングの違いが、プレーにも気持ちにも余裕を生んだといえる。

熊谷は捕球後、二塁走者を「目」でけん制。打者走者ビシエドの走力も頭に入れ、ギリギリまでボールを持って一塁送球した。「やっぱり、あそこでサードに進まれるのがダメだと思う。バッターの足も速くない。そこも考えながらやっていた」。

2死三塁ならバッテリーエラーでも失点につながる可能性がある。2-2で同点の場面だ。二塁に走者をとどめることの価値は、決して小さくなかったはずだ。

岡田監督の野球勘が生んだ、わずか数メートルのポジショニング変更。熊谷の「目」でのけん制。この日の試合は敗れたが、プロの技は至るところで光っている。【阪神担当 中野椋】